
SNSを中心に話題となっている“独身税”という言葉をご存じでしょうか。これは「結婚していない人に一律で課される税金」というわけではありません。ではなぜ、あたかも独身者だけが負担するような呼称が独り歩きしてしまっているのでしょうか? 41歳女性の事例をもとに、“独身税”と呼ばれる制度の実態と、騒がれている背景を掘り下げていきましょう。石川亜希子CFPが解説します。
SNSで話題…来年から始まる“独身税”の実際
“独身税”という言葉をご存じですか?
「結婚していない人に一律税金がかかるの?」と不安に思う人もいるかもしれませんが、実際にこうした名前の税金が存在するわけではありません。
正式名称は「子ども・子育て支援金制度」といい、2026(令和8)年度から段階的に導入される新しい仕組みです。
この制度は、社会全体で子育て世帯を応援し、少子化に歯止めをかけることで、日本の未来を支えていくことを目的としています。
「社会全体で応援する」、つまり、支援のための財源を皆で負担しようと、私たちが毎月支払っている公的医療保険料に上乗せする形で徴収される予定です。
この「公的医療保険」とは、下記の3つを指します。
1.被用者保険(健康保険・共済制度)
2.国民健康保険
3.後期高齢者医療制度
したがって、会社員、公務員、自営業者、年金受給者など、独身か既婚かにかかわらず、すべての医療保険加入者が対象となります。独身だから特別に徴収されるというわけではありません。
こども家庭庁によると、実際の負担額は2026(令和8)年から段階的に引き上げられ、2028(令和10)年には、平均で月450円程度になる見込みです。
ただし、負担額は収入によって異なり、たとえば年収が約1,000万円の人の場合、月1,650円ほどの負担となるとみられています。また、収入が少ないほど、相対的に負担感は大きくなります。
「独身税」という呼び方は誤りですが、その呼び名が独り歩きするのには、理由があるようです――。
年末年始も会えず…2人の娘を持つ69歳母の「心配事」
埼玉県で夫と暮らす後藤聡子さん(仮名・69歳)は、夫婦で月約26万円の年金を受け取り暮らしています。年金だけでは少し心許ないため日々節約に努め、ときどき遠出をすることが夫婦にとってのささやかな楽しみです。
そんな聡子さんには、2人の娘がいます。
長女の美穂さん(仮名・41歳)は、広告関係の企業に勤めており、都内で一人暮らし。激務なようで、聡子さんがいつ連絡をしても「ごめん、いま仕事中。あとでいい?」と返ってきます。実家にもなかなか顔を出さず、もう何年も顔を合わせていません。
美穂さんが月どれくらい稼いでいるのかもわかりませんが、「都内での一人暮らしは家賃の負担も大きいだろう」と心配した聡子さんは、いまでもときどき、お米やレトルト食品などの仕送りをしています。
――そんなある日のこと。聡子さんは年末年始の予定を聞くため、美穂さんに電話をかけました。すると、珍しく美穂さんが電話に出てくれました。
「……あ! もしもし?」
「もしもし。ちょっとなに? 忙しいんだけど」
久しぶりに娘の声が聞けたことで、聡子さんは思わず声が弾みます。
「もしもし、ねえ、元気? 体調は大丈夫? 無理してない? こないだのお米、もう食べた? 調達するの大変だったのよ。どこも高くって……」
