そんなに偉いの!?…娘が思わず声を荒らげた「母の一言」
その後も、聡子さんのおしゃべりは止まりません。
「……要件はなに?」
「ああ、そうそう。あんたたまには実家にも顔を出したら? 紗耶香の子どもたちもずいぶん大きくなったのよ。結婚してないんだから、いつでも帰ってこられるでしょう」
「……は?」
電話の向こうで絶句する美穂さんを気にすることなく、聡子さんは続けます。
「独身なんだし、少しくらい時間つくれるでしょう。紗耶香は仕事もしてるのに旦那さんと孫たちを連れて、ときどき顔出してくれるのよ。今年の年末年始くらい帰ってこられない? そういえば、こないだテレビで『独身税』なんてやってたわよ。実家に顔を出すか結婚するか、どっちかにしなさいよ」
「なにそれ……意味わかんない。結婚してるのがそんなに偉いの!?」
娘の予想外の反応に呆気にとられた聡子さんでしたが、次の瞬間、電話は切れてしまいました。
どうやって結婚しろと…美穂さんを追い詰める「生活苦」
(別に結婚したくないわけじゃないのに、独身が悪いみたい。毎月家賃と生活費で生活ギリギリなのに、恋愛する暇なんてあるわけないでしょ? こんな状態でどうやって結婚しろっていうの!?)
実は、美穂さんは契約社員でした。そのため激務にもかかわらず年収は約400万円、毎月の手取りは26万円ほどです。物価も上がり、税金や保険料の負担も少しずつ増えるなか、生活の実感はますます厳しくなっています。
一方、妹の紗耶香さん(仮名・38歳)は結婚して2人の娘(5歳・3歳)がおり、聡子さん夫婦が暮らす実家から車で30分ほどのところに住んでいます。世帯年収は約800万円ほど。
テレビを見る時間もない美穂さんは、母が言っていた“独身税”という言葉が気になり、怒りに震える手で検索してみました。すると、「子ども・子育て支援金制度について」というページにたどり着きます。
「“社会全体で子育て世帯を応援”……? 私は私の生活でいっぱいいっぱいなのに、私より稼いでて幸せそうな紗耶香たちを支援しろってこと?」
“独身税”の意味を理解した美穂さんは、思わず持っていたスマホをベッドに投げつけました。
