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「ハローワーク求人に応募ゼロ」障害福祉の現場84%で職員不足 入浴は週4回、トイレは順番待ち…“深刻な影響”実態調査で明らかに

「ハローワーク求人に応募ゼロ」障害福祉の現場84%で職員不足 入浴は週4回、トイレは順番待ち…“深刻な影響”実態調査で明らかに

障害のある人たちの生活を支える福祉事業所で、深刻な人手不足が続いている。全国約1800の障害福祉事業所で構成する「きょうされん」が12月9日に発表した実態調査によると、回答した3142か所の事業所のうち84.2%が職員不足を訴え、募集人数に対する採用人数の割合(充足率)は正規職員でわずか56.8%にとどまった。

きょうされんは同日、調査結果をまとめた報告書を発表。都内で会見を開いた。

ハローワークに出しても応募ゼロ

調査は今年8月から10月にかけて実施され、就労支援や生活介護、グループホームなど全国の障害福祉事業所から回答を得た。

「大いに不足している」「不足している」「やや不足している」を合わせた職員不足を訴える事業所は84.2%(3142か所中2647か所)に上り、介護労働実態調査の64.7%を大きく上回る結果となった。

自由記述欄には2419件の回答があり、なかには「ハローワークにどれだけ募集しても人は来ない。有料求人サイトや人材紹介会社に何百万円も出す余力はない」「現場の職員が3、4人とも全員60代を過ぎている。施設長は定年退職で、次はどうすればいいのか」といった悲痛な声が寄せられた。

募集費用の負担も深刻で、53.0%(1273か所)の事業所が年間を通じて求人広告や人材紹介会社に経費を支出。法人全体で年間1000万円以上の求人費用を負担しているケースもあるという。

最大の要因は「賃金の低さ」

人員確保が難しい理由として、81.9%(2491か所)の事業所が「他産業より賃金が低い」と回答し、最多となった。厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、障害福祉や介護が含まれる「医療・福祉」の月額賃金は30万6000円で、全産業中で下から5番目に位置している。

きょうされんの小野浩政策・調査委員長は会見で「医療・福祉の中から医療を除けば、介護福祉の月額賃金はもっと下がる。これを何とかしなければならない」と訴えた。

利用者への深刻な影響

職員不足は、障害のある人たちの生活に直接影響を及ぼしている。調査では「管理者・職員の負担増」が87.1%(2644か所)、「支援の内容・質の低下」が76.7%(2328か所)に達している。

具体的には、通所施設で昼食の食事介助やトイレ介助を順番待ちにせざるを得ない事例や、グループホームで毎日入れるはずの入浴回数を週4日に減らす事例が報告された。

また、訪問介護の現場では「ホームヘルパーの派遣時間数を減らし、全介助が必要な利用者への食事や入浴、排泄を短時間で支援し、夜間の就寝中の寝返り支援を断念せざるを得ない」ケースもあるという。

小野委員長は「こうした対応は、障害のある人の生命や尊厳に関わる問題であり、人としての当たり前の生活を営むことすら困難にしている」と述べた。

小規模事業所ほど厳しい状況

調査では、利用定員が少ない小規模事業所ほど職員確保が困難な実態も明らかになった。就労支援や生活介護などの日中活動支援事業所で、正規職員の利用定員規模別の充足率は定員20人以下で57.3%だったのに対し、61人以上では71.0%と差が開いた。

小規模事業所が不利となる要因の一つとして、処遇加算制度の問題が指摘された。

処遇改善加算で最も加算率の高い「加算1」を取得するには、年収440万円以上の職員が1人以上必要だが、最低賃金が低い地域の小規模事業所では、この条件を満たすことが困難だという。

小野委員長は「東北や沖縄などの低賃金地域では、事実上、年収440万円の職員を配置することが不可能だ」と説明。

調査では、厚生労働省の経営実態調査における「収支差率」の問題点も指摘された。報酬改定では、黒字か赤字かを示す「収支差率」が指標とされるが、小規模事業所ほど収支差率が低い傾向がある。

たとえば、生活介護事業所の全体平均の収支差率は8.3%だが、利用定員20人以下では7.8%と平均を下回る。一方、定員61人以上では12.1%と高くなる。

しかも、小規模事業所で黒字が出ている場合、その多くは「募集しても採用できず、人件費が余った」というケースだときょうされんは推測する。つまり、施設が儲けを出しているのではなく、働く人が来なかったために、その分の人件費が繰り越される形で余剰となっただけだという。

この点について「収支差率を根拠に報酬改定が検討されること自体に問題がある」と小野氏は指摘する。

新卒採用はわずか14%

さらに深刻なのが、新卒者の採用状況だ。採用できた正規職員のうち学校新卒者はわずか14.4%で、残り85.6%が中途採用者だった。企業・官公庁の新卒者充足率が70%であるのに比べ、障害福祉事業所の充足率56.8%は大きく下回っている。

この状況について、小野委員長は「全国の介護系福祉系の学校、学部、学科、専門学校が定員割れを起こしている。卒業しても営利企業に就職してしまう傾向がある」と分析。

「大学のキャリア支援課に頼らず、人材紹介会社が直接学生に営業をかけ、給与条件の良い営利企業を紹介するのが一般的になっている」と続けた。

「被害を受けているのは利用者」

小野委員長は「被害を一番被っているのは、支援を受けている障害のある人たちです。施設では、障害者の人権侵害ともいえるような事態が起きているが、それは日本の障害福祉施策のあり方と、予算水準の低さに誘発されている面がある」と強調。

小野委員長は「そもそも障害福祉予算のパイ自体が小さい」と指摘し、次のように訴えた。

「OECD加盟国の障害福祉予算は各国GDP比平均2%程度で、ノルウェーやスウェーデンでは5%に届いているところもある一方、日本は1.2%にとどまっている。これをせめてOECD平均に引き上げることが必要だ」

配信元: 弁護士JP

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