
ロシアは本来、欧米型の民主主義国家であり、共産党独裁の中国とは相容れないはずの国で、歴史的にも対立した過去がありました。しかし、プーチン政権下で「反米」の利害が一致し、両国の距離はかつてないほど縮まっています。米中対立が深まり、また米国の孤立主義が強まるなか、日本と国境を接する二つの大国が手を組む背景には、どのような力が働いているのでしょうか。三尾幸吉郎氏の著書『図解中国が変えた世界ハンドブック 9主要国の国益と対中関係から考える、米中新冷戦回避への道』より「ロシア」に焦点を当て、同国の対中・対米姿勢など、政治・社会の特徴を紐解きます。
日本にとって目が離せない、「ロシア」と中国の距離感
■両国の距離感(ポイント)
ロシアは中国の政治思想とは本来、相容れないはずですが、プーチン政権は自由よりも統制を重んじ、反米でも一致。現在の政治関係は良好です。
またロシアと中国は人的交流も盛んで、ロシアの世論は親中、中国の世論も親露と社会関係も良好です。さらに両国は経済関係も親密です。総括するとロシアと中国の距離感は「やや近い」と評価しています。
[図表1]ロシアと中国の距離感分析 出典:筆者作成
ロシアは、米中新冷戦で中国陣営に与する可能性の高い代表格の国の一つです。米国が国際秩序の在り方を決める現状に不満を持つ点で中国と一致しているからです。
ただし、中国にとってロシアは決して気を許せる国ではありません。かつてロシアとなる前のソビエト連邦(ソ連)と同盟関係にあったにもかかわらず、1960年前後に中ソ対立が激化したこともあり、ロシア(当時はソ連)は中国と紛争中だったインドに武器を供与するなど、しばしば痛い目に遭ってきたからです。
したがって、中国側からロシアに接近して同盟を結ぶ可能性はほとんどないでしょう。
しかし、弱体化したロシアが中国に接近する可能性はあります。特に、米国が同盟国とともに中国包囲網を築けば、追い込まれた中国が軍事大国ロシアに走らないとは限りません。ロシアとも中国とも海を隔てて接する日本としては、中露関係から目が離せないと言えるでしょう。
「民主主義国家」は“形だけ”?…ロシアと中国との奇妙な類似点
ロシアは欧米型民主主義の国で、しかも現在(2024年3月)はプーチン大統領が率いる統一ロシアが与党、ロシア連邦共産党は野党なので、人民民主独裁を憲法で定める中国とは政治思想が本来的に相容れません。
しかし、ロシアでは政敵を排除する動きが頻発し、現政権に有利な方向に世論を誘導する工作も多く見られるため、政治的自由度も民主主義度も極めて低いレベルにあります(図表2)。そして結果的に中国に極めて近い政治状況となっています。
[図表2]ロシアの政治的自由度と民主主義指数 出典:IMF、EIU、Freedom Houseのデータを元に筆者作成
また人権思想においても、ロシアはキリスト教の教派の一つであるロシア正教の信者が多いので、本来的には西洋諸国に近いはずです。しかし国連人権理事会などで中国の人権侵害を非難する動きに対しては、中国を擁護する立場をとっています。
ただし、統一ロシアが野党に転落したり、プーチン大統領が引退したりすれば、ロシアの政治・人権思想は一気に西洋諸国に近づく可能性もあり得ます。プーチン政権後は極めて不安定な状況となりそうです。
ロシアと中国の「対立」の歴史
他方、ロシアあるいはソ連と中国の間には歴史的に、領土争いを含め、さまざまな対立がありました。特に中ソ論争のさなかにあった1960年に、ソ連が派遣していた技術者を引き揚げたことは、中国にとっては深刻な痛手となりました。当時の中国は大躍進政策に失敗し、大きな人口減を確認できるほどの大飢饉に見舞われていた最中だったからです。
そして1969年には、ダマンスキー島(珍宝島)でソ連の国境警備隊と中国軍による武力衝突が起こったこともありました。また領土争いのあるインドやベトナムへの兵器供与もなされてきています。
