暗号資産(仮想通貨)の代表格であるビットコイン(BTC)は、史上最高値を記録してからわずか1カ月余りで、年初来の30%超の上昇分を全て帳消しにする急落に見舞われました。この下落は、2022年にステーブルコイン「テラUSD」の運営会社とFTXが破綻して以来の最悪の月間下落率となる見通しであり、市場の脆弱性を改めて浮き彫りにしています。
急落の背景:リスク回避と機関投資家の動向
ビットコインは10月6日に過去最高の12万6251ドルを記録しましたが、その後下落に転じ、11月21日には一時8万1600ドルを付け、4月以来、初めて8万5000ドルを下回りました。最高値からの下落率は3割強に達しています。
今回の急落は、複数の要因が複合的に作用した結果です。
第一に、市場全体がリスク回避モードに突入したことが挙げられます。トランプ米政権の暗号資産に好意的な姿勢への熱狂が後退したことや、ハイテク株の急騰が一服したことで、リスク資産全体への投資意欲が後退しました。
マクロ経済的な背景として、米連邦準備理事会(FRB)の引き締め姿勢が続き、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での追加利下げ見送りの観測が広まったことが、投資家のリスク回避姿勢を強めました。その結果、世界的に株式市場も不安定となり、米国債にはリスク回避の典型的な兆候として買い注文が殺到しています。
第二に、機関投資家の需要の急速な縮小と資金流出です。年初にかけてビットコインを過去最高値に主導した機関投資家などの主要な買い手が静かに市場から退き、相場の支えを失いました。今回の売りは、長期保有者による利益確定、機関投資家の資金流出、マクロ環境の不透明さ、レバレッジをかけたロング(買い)ポジションの清算が重なった結果だと指摘されています。
ブルームバーグのデータによると、ETF全体で運用資産が約1690億ドルまで膨らんでいましたが、米国のビットコイン現物ETFは11月20日に9億ドル(約1395億円)以上の純流出を記録し、2024年1月の発売以来2番目に悪い日となりました。
オプション市場と清算の連鎖
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今回の下落は主に現物売りが要因ですが、オプション取引のポジションが変動を拡大させ、不安定さを増幅させています。
ビットコインが特定の価格水準を割り込むと、ディーラーが中立(ヘッジ)を保つために調整を行う必要が生じ、この「ガンマ・エクスポージャー」と呼ばれる過程が価格変動を増幅します。特に、プットオプションの需要が集中していた8万5000ドルを下抜けた際、マーケットメーカーは「ショート・ガンマ」の状態になり、これは価格が動くほど保有ポジションの損失が拡大する状況を指します。価格が下がると追加でヘッジ(リスク回避の売り)が必要になるため、バランスを保つべくビットコインをさらに売りやすくなり、結果として下落を一段と早めました。
この急落の過程で、レバレッジをかけたトレーダーへの影響も深刻でした。ビットコインが8万ドルに急接近する中、過去24時間で暗号資産ロングポジションで約20億ドル(約3100億円)もの清算が発生し、ビットコイン単体でも9億6400万ドル(約1494億2000万円)の清算が記録されました。これにより約39万6000人のトレーダーが清算されています。