母急逝、片付けで見つけたもの
現役時代に無理して働いてきた母ですが、体力には自信があると自慢していたとおり、田舎に越してからも大きな病気をすることなく過ごしていました。姉妹も、気軽に行ける距離ではなくなりましたが、年に一度は母のもとを訪れ、元気に過ごしている姿に安心していました。
Aさん姉妹が独立したのは母が55歳のとき、独立してから30年におよぶ仕送りを続け、母は85歳になっていました。
そんなある日、母の様子をみてくれていた近所の方から、Aさんに電話連絡が入ります。母は心筋梗塞を発症し自宅で倒れ、発見が遅かったためすでに亡くなっていたというのです。
3日前の電話で「元気だから」と話していたばかりなのに…
Aさん姉妹は急いで実家に向かいます。近所の方によると、「もう少し発見が早ければ助かったかもしれないが、私がインフルエンザにかかってしまい、治ってからもしばらく訪問は控えていた」とのこと。誰のせいでもありませんが、突然の別れに悲しみが隠せませんでした。
葬儀等、ひととおり終わると、「実家を片付け(遺品整理)しないといけないね」と、姉妹で仕事の休みを合わせて実家に向かいました。母は質素倹約していたのか、物は少なく1回で片付きそうな荷物量です。
荷物を積んで帰るためレンタカーを借り、片付けを進めていたところ、あるものをみつけます。
姉妹それぞれの名前が記された2冊の通帳
タンスの奥には2冊の通帳がありました。Aさん姉妹は恐る恐る開いてみると、見開きのところにAさん姉妹のそれぞれの名前が記入されていたのです。
記帳された最初の日付は30年前。そこには、6ヵ月分、あるいは1年分と、姉妹が振り込んでいたお金がそのまま入金されていました。母は仕送りを引き出すことなく、それぞれの通帳に預けていたようです。
手つかずの通帳の残高は合計で600万円以上ありました。
「お母さんは、私たちの仕送りをまったく使うことなく通帳にいれていたんだ……」
気丈に振舞い続けた母らしいと、2人で涙を流しました。ほかに預金等はみつかりませんでした。最後まで子を想い続けた母の優しさに触れ、Aさん姉妹は「残った身内は姉妹2人だけだから、連絡はまめにしよう」と、母の想いを大事に過ごそうと誓い合いました。
相続では、一つボタンを掛け違えてしまうと、親子、きょうだいでも争族につながることがあります。揉めない有効手段として、エンディングノートや遺言書、付言などがありますが、日ごろから「助け合ってほしい」と想いを伝えていたAさんの母の想いは、着実に姉妹に伝わっていたようです。
参考
総務省統計局:2024年(令和6年)平均結果の概要 65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の家計収支 -2024年
https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2024.pdf
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
共同代表
