大きな青森ヒバの扉を抜けた瞬間、まるで別世界へ迷い込んだような錯覚に包まれる。
イグサの香りとほのかなお香の薫りが心をほどき、自然と深い呼吸を誘う。季節の花々がしつらえられた天井高約5.5mの開放的な玄関が、穏やかな歓迎の気配で訪れる者を包み込む。日常から非日常へ──その境界線がここにある。
靴を脱ぐという小さな儀式を経て感じるのは、畳の感触、木の温もり、漂う静けさ。足裏から五感がほどけていく。館内ではダイニングを含むすべての場所で裸足のままくつろげるのが、この宿ならではのぜいたくだ。
「星のや」は、 “その瞬間の特等席へ。”をコンセプトに展開するブランド。地域の個性を生かした独創的なテーマともてなしで、世界各地から訪れるゲストたちを圧倒的な非日常へと誘ってきた。
オフィス街・大手町に佇む「星のや東京」は、「もし日本旅館が東京にあったなら」という発想から生まれた。最上階には天然の大手町温泉。地下には宿泊者専用のダイニング。14層の各客室フロアには6つの客室と各階専用リビング「お茶の間ラウンジ」が。各フロアがひとつの小さな旅館のように構成され、それらが積み重なり“塔の日本旅館”と称される。
都会の真ん中で本格的な日本文化に触れ、季節のうつろいを五感で感じる。日常のすぐそばにある非日常は、現代を生きる私たちへのご褒美だ。疲れを癒やす週末ステイは、あえて遠くに出かけずとも東京で叶う、和の静けさと美の滞在を。すぐそばで、 “その瞬間の特等席”が待っている。

日本を巡る美食旅を、ここ東京で。「メインダイニング」
国内外の旅人を非日常へと誘ってきた「星のや東京」に、新たな話題が加わった。館内のメインダイニングがリニューアルし、「もう作られなくなった日本の家庭料理」をテーマにしたディナーコースが登場。ファストフードの普及などで姿を消しつつある家庭料理に光を当て、独創的な感性と技術で現代的に再構築した11品が並ぶ。

総料理長・岡亮佑シェフはこう語る。
「昔の料理は“生きるための知恵”として生まれたものが多い。だからこそ、ただ再現するだけでは意味がないんです。でも、伝統の味は何かしらの形で残したい。廃れてしまった料理も、視点を変えれば美味しいと感じていただけるかもしれない。郷土料理の新たな可能性を知っていただくきっかけになればと思っています」
料理の前には元となった郷土料理の解説が描かれたポストカードを手渡すなど、感性をくすぐる仕掛けも。郷土料理がどんな“変身”を遂げるのか、一皿を待つ時間さえ楽しい。

「北は塩蔵や発酵の知恵、南は多彩な食材と中国の影響など、同じ日本でも全く異なる食文化がある。それらをコースにできるのは、足し算の料理であるフランス料理だからこそ」とシェフ。
コースは、さながら北から南まで日本各地の食文化を巡る旅のよう。和の温もりに包まれたメインダイニングで、館内着に裸足のままリラクシングな美食体験が叶うのだから、うれしい限りだ。


「料理を味わい、温泉に入り、そのまま布団へ。そんな滞在を通じて、日本の館文化の素晴らしさを改めて感じていただけたらうれしいです」
東京にいながら、郷土を巡る“食の旅”を楽しんでみてはいかがだろう。

1名¥33,880(税・サービス料込み 要予約)
総料理長・岡亮佑
1985年生まれ、滋賀県出身。2005年より、神戸北野ホテルやレストランオマージュ、ピエールガニェールなどでフランス料理の研鑽を積む。2023年5月1日より現職。「その土地でしか創ることのできない料理を追求する」を信条に、伝統と独創的な感性を融合させた新しい料理の開発を続けている。

静寂の中で堪能する、江戸前の粋と技「鮨 大手門」
今年3月、メインダイニングの一角に誕生した、カウンター8席のみの「鮨 大手門」。
“日本旅館の江戸前鮨”をコンセプトに、日本料理の研鑽を積んだ料理長が手がける酒肴(しゅこう)と鮨(すし)を、和の空間で味わえる。伝統的な江戸前の技法を大切にしながら、日本各地の鮨文化を取り入れた独創的な握りも楽しめるのは、ここが東京であるからこそ。職人の所作、器の美、旬のネタ──五感で江戸前の粋や鮨の奥深さを堪能できる。もちろん、こちらも裸足に館内着のままで。食事を終えたら、そのまま温泉へ、あるいは客室やラウンジでゆったりと余韻を楽しむ。時間を気にせず、美味とともに夜をほどく。それが、日本旅館にある鮨屋ならではのぜいたくだ。
1名¥36,300(税・サービス料込み 要予約)




