
これまでの国際秩序が揺らぐ中、日本と国境を接するロシアと中国の連携が強化されると、日本への脅威が一層強まります。両国を結びつけるのは、米国への対抗と貿易の実利。ウクライナ侵攻で西側諸国から制裁を受ける資源大国ロシアと、製造大国中国は、互いの弱点を完全に補い合っています。三尾幸吉郎氏の著書『図解中国が変えた世界ハンドブック 9主要国の国益と対中関係から考える、米中新冷戦回避への道』よりデータから読み解く中露の経済的な結びつきと、日本への影響を解説します。
ロシアにとっては中国が「最大の貿易相手国」だが…
ロシアと中国の貿易関係を見ると、中国側の統計(2021年)ではロシアへの輸出が676億ドル(図表8)、ロシアからの輸入が784億ドル(図表9)で、中国から見て108億ドルの輸入超過(ロシアの輸出超過)となっています。ここ数年はこの傾向が続いており、ロシアは多くの西洋諸国とは違って、対中貿易が黒字です。
[図表8]中国の輸出先トップ30(2021年、2011年、2001年) 出典:CEIC(出所はIMF)のデータを元に筆者作成
[図表9]中国の輸入元トップ30(2021年、2011年、2001年) 出典:CEIC(出所はIMF)のデータを元に筆者作成
ロシア側の統計で貿易相手先の内訳を見ると(図表10、11)、輸出・輸入とも中国が最大の貿易相手国となっています。
[図表10]ロシアの輸出先ランキング(2021年) (注)国名の末尾の*印はCIS加盟国を示す出典:CEIC(出所はIMF)のデータを元に筆者作成
[図表11]ロシアの輸入元ランキング(2021年) (注)国名の末尾の*印はCIS加盟国を示す出典:CEIC(出所はIMF)のデータを元に筆者作成
2000年代前半のロシアは、ソ連崩壊後、かつてのソ連構成国で結成された独立国家共同体(CIS)内や欧州諸国との結びつきが強かったため、貿易もEUが50%前後、CIS諸国が15%前後を占めていました。
現在(2021年)もCIS諸国は12%前後のシェアを維持していますが、EUは30%台までシェアを落としました。一方、5%前後だった中国が18%前後までシェアを拡大し、米国のおよそ4倍の貿易量(輸出量+輸入量)となりました。なお、2022年にロシアがウクライナに侵攻したあとは、西洋諸国の経済制裁もあって、中国との貿易が一層そして急激な伸びを示すものと思われます。
一方、中国側の統計で貿易相手先を見ると、ロシアは2.4%と米国の5分の1に過ぎない一方、米国が最大の貿易相手国で12.5%を占め、次いで日本が6.1%、韓国が6.0%などとなっています。したがって、ロシアから見た中国と、中国から見たロシアは、経済上の重要性という点で大きな違いがあると言えるでしょう。
30年間停滞のロシア、追い抜いた中国
ロシア経済のGDP(国内総生産)は2021年で約1.8兆ドルと、世界第11位です。ソ連崩壊後のロシア経済を見ると、1991年以降の年平均成長率は約1%でした。この間に世界経済は年平均3.3%で成長していましたので、大きく後れをとりました。その主因はソ連が崩壊したことによる経済混乱です。
また、外需依存度が高すぎるため、世界経済が順調なときには良いものの、そうでないときには大きく落ち込むという経済構造にも原因があります。特に1998年のアジア通貨危機では、その余波でロシアは金融危機に陥りました。
[図表12]ロシアの実質成長率 出典:IMFのデータを元に筆者作成
また、経済的な豊かさを示す1人当たりGDPは1万2000ドルほどで世界第66位と、世界を5分位に分けると上から2番目(第2分位)という位置にあります。これはソ連崩壊前(1990年)とほぼ同水準ですが、30年前には極めて貧しい国(第5分位)だった中国に追い付かれてしまいました。
[図表13]1人当たりGDP(ロシアと中国) (注)世界位置は(中国の順位-1)÷(対象国数-1)で計算出典:IMFのデータを元に筆者作成
ただし、軍事力では世界第2位で、国連安保理の常任理事国でもあることから、国際社会で経済力以上の大きなプレゼンスを持っています。
産業構造は鉱業・エネルギー等供給業が1割を超える資源大国で、小麦など穀類の生産も多い農業大国でもある一方、民需関連の製造業に弱さがあります。需要構成は内需が弱く、純輸出等が1割近くを占める外需依存型です。
