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中国も西側諸国との対立が強まり「中露同盟」成立の懸念…ロシアにとって歓迎の〈米中新冷戦〉

中国も西側諸国との対立が強まり「中露同盟」成立の懸念…ロシアにとって歓迎の〈米中新冷戦〉

ロシアは資源、中国は民需の製造業に強み…経済安全保障上の懸念を補い合う関係

ロシアは外需依存度の高い国です。GDPの需要構成を見ると(図表17)、個人消費の比率は52.0%と世界平均を4.5ポイント下回り、総固定資本形成(≒投資)も21.4%と世界平均を3.6ポイント下回るなど内需の弱さが目立ちます。一方、純輸出等(含む在庫変動)は8.4%ものプラスとなっています。

出典:国連のデータを元に筆者作成 [図表17]ロシアの需要構成(2011~20年平均) 出典:国連のデータを元に筆者作成

また、ロシア経済は鉱業・エネルギー等供給業に強みがあります。総付加価値(TVA≒GDP)の産業構造を見ると(図表18)、鉱業・エネルギー等供給業が12.6%を占めており、世界平均を6.5ポイントも上回っています。

出典:国連のデータを元に筆者作成 [図表18]ロシアの産業構造(2011~20年平均) 出典:国連のデータを元に筆者作成

国土の広いロシアは、石油・石炭、天然ガス、ボーキサイト、希土類(レアアース)、肥料原料(カリウム等)、木材などの資源に恵まれているため、それらを輸出するのに加え、その加工産業も盛んです。また、第一次産業の比率は3.8%で世界平均並みですが、小麦など穀類、甜菜、牛乳、じゃがいも、ヒマワリの種、トウモロコシ、家禽、大豆などの農業生産も盛んです。

他方、製造業の比率は13.7%で世界平均を下回っています。防衛産業(レーダー、ミサイルなど)や高性能航空機、宇宙船、造船などは強いものの、民需関係の製造業が弱いのです。

したがって、ロシアと中国が関係を強めると、両国とも経済安全保障上の懸念を軽減できると言えるでしょう。

ロシアは鉱物資源、エネルギー、農業生産が得意なので、それらが不足し大量に輸入している中国にとっては頼りになる存在です。一方、ロシアは民生用工業製品などの製造が苦手なので、それらの大量生産が得意な中国は頼りになります。

中国がロシアに求めるのは「資源」…投資は第一次産業に集中

中国がロシアで投資している業種を見てみましょう(図表19)。第1位は鉱業の50億ドルで全体の41.4%を占め、第2位は農業、林業、畜産業、水産業の28億ドルで23.0%、第3位は製造業の16億ドルで13.0%を占めています。

特に、農業、林業、畜産業、水産業分野に関しては、中国が世界に投資した全体額の約15%を占めています。

出典:CEIC(出所は中国商務部)のデータを元に筆者作成 [図表19]中国の対ロシア直接投資累積額 出典:CEIC(出所は中国商務部)のデータを元に筆者作成

一方、製造業に関しては、中国は世界で巨額の投資をしているため、その全体に占めるシェアは1%程度にとどまります。したがって中国は、対ロシア投資において、製造業ではなく、第一次産業や鉱業に投資価値を見い出していると言えるでしょう。

中国は必ずしも望んでいない“中露同盟”

ロシアは欧米型民主主義の国だが、米国とは軍事対立関係にあり、米中新冷戦に突入した場合、米国陣営に与する可能性は低い。しかも中露同盟が成立すれば、軍事力・経済力で米国と並ぶ力を持てるため、中国陣営に与する可能性が高い。

日本にとってロシアは中国陣営の主力メンバー候補で、橋渡し役を試みる場合にもロシアが協力してくれるとは到底思えない。

日本としては中国がロシアとの同盟に走らぬよう、気をつけるしかなさそう。

ロシアは欧米型民主主義の国であり、しかも現在(2024年)はプーチン大統領が率いる統一ロシアが与党、またロシア連邦共産党は野党なので、「中国の特色ある社会主義」とは本来的に相容れないはずです。

しかしプーチン大統領は、自由よりも統制を重視する政権運営をしているので、人民民主独裁を憲法で定める中国と通じ合い、政治面では相互に尊重する関係にあります。

ただし、ロシアは選挙で為政者を選択する政治体制なので、プーチン大統領が選挙で敗れれば一気に中国との関係が悪化する可能性もあります。しかし世論が親中なので、反中政権が誕生する可能性はそれほど高くありません。

そして、米国とはウクライナなど東欧、またオホーツク海で覇権を争う軍事対立関係にあります。

経済面でもロシアにとって中国は重要な国です。輸出先としては第1位、輸入元としても第1位の貿易相手国であり、投資面においても中国の対ロシア投資はロシアGDP比0.8%の規模があります。

他方、米国も輸出先としては第9位、輸入元としては第3位の貿易相手国で、投資面においても中国に比肩する投資元です。ただし、貿易面ではEU諸国(ドイツなど)やCIS諸国(ベラルーシ、カザフスタンなど)、投資面ではEU諸国(フランス、ドイツ、イタリアなど)の存在感の方が大きいので、米露関係は相対的に希薄と言えます。さらにウクライナ侵攻に伴う米の制裁で、一層関係が薄まりました。

そしてロシアは米中新冷戦を望む数少ない国の一つと言えるでしょう。中露同盟が成立すれば、軍事力・経済力で米国と比肩しうる力を持つこととなり、プーチン大統領が目指す、ロシア帝国復活とも言うべき、東西冷戦終結前の勢力図に回帰できる可能性があるからです。

しかし、中国はロシアとの同盟を望まないでしょう。かつてソ連との同盟では痛い目にあってきましたし、ロシアとの関係以上に西洋諸国(含む日本や韓国)との関係が重要だからです。

さらに中国が目指す社会主義近代化強国を実現する上では、自国の科学者が西洋諸国や日韓の科学者と切磋琢磨できる環境が必要不可欠だからでもあります。

日本にとってロシアは協力できる国とは言えないでしょう。日本が米国陣営に与する場合は、それと敵対する中国陣営の主力メンバーとなりそうですし、橋渡し役を試みる場合にも、ロシアが協力してくれるとは到底思えないからです。

日本としては、中国がロシアとの同盟に走らぬよう、気をつけるしかなさそうです。

出典:筆者作成 [図表20]米中ロシアの関係 出典:筆者作成

三尾 幸吉郎

ニッセイ基礎研究所 客員研究員

世界経済アナリスト

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