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「戦って戦って戦って戦って戦っていきたい」 高市首相「働いて働いて…」発言の流行語大賞選出に過労死遺族らが抗議

「戦って戦って戦って戦って戦っていきたい」 高市首相「働いて働いて…」発言の流行語大賞選出に過労死遺族らが抗議

自民党総裁選直後の10月4日、高市早苗首相が発した「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」という発言が、12月1日に新語・流行語大賞の年間大賞に選ばれた。

憲政史上初の女性首相による「気合の入った」言葉として評価されたこの受賞だが、過労死で大切な家族を失った遺族たちからは怒りの声が上がっている。

12月11日、過労死遺族らが都内で緊急記者会見を開き、流行語大賞受賞と高市内閣が進める労働時間規制の緩和方針に対する強い抗議の意を表明した。

「愕然とした」過労死遺族の衝撃

「医師過労死を考える家族の会」の中原のり子共同代表は、会見で「流行語大賞のニュースを見たときには愕然とした」と述べ、次のように訴えた。

「11年前、過労死等防止対策推進法を作ってもらった時、全議員が『過労死は二度と出さない』という決意のもと賛成票を投じてくださった。高市さんもその中にいらしたはずなのに、真逆の方向に走り始めている」

中原共同代表の夫は「馬車馬のように働く」という言葉を残して過労死した。

高市首相は自民党の総裁に選ばれた直後にこの言葉を使っており、中原共同代表は「実際に人が死んでいる言葉を、いいように使い回している。こんな言葉が独り歩きしては、彼は浮かばれない」と訴えた。

「パワハラ加害者の言い訳と同じ」郵便局員過労死家族会が批判

「郵便局員過労死家族とその仲間たち」の倉林浩事務局長は、高市首相のその後の釈明を厳しく批判した。「首相は『長時間労働を助長するものではない』と弁明していますが、これはパワハラ加害者が『そんなつもりはなかった』『指導のつもりだった』と言い訳するのとまったく同じ構図です」

郵便局員過労死家族会は昨年9月に発足。倉林事務局長は「労働者は現場のみならず管理職も含めて疲弊しており、立場を超えて働く者は皆困難な状況に追い込まれている」と指摘。

「私たちとしてはこうした状況を変えていくために、戦って戦って戦って戦って戦っていきたい」(倉林事務局長)と強い決意を表明した。

トラックドライバーの「働きたい」に潜む構造的問題

元トラックドライバーでライターの橋本愛喜氏は、高市首相の発言に「歓喜したトラックドライバーが多くいた」ことに危機感を覚えたという。

トラックドライバーは2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されたが、一般職の720時間に対し960時間と240時間も長い。

さらに深刻なのは、荷主のもとでの「待機時間」だ。国が発表している平均待機時間は荷積みと荷降ろしで合計3時間だが、橋本氏が取材した中で最長の待機時間は21時間半に及び、この間賃金は発生していなかった。

「ドライバーが『もっと働きたい』と言っている根底には、長く働かないと生活が成り立たないという問題がある。本来得られるべき賃金を得られるようになれば、必然的に給料は上がるはず」と橋本氏は訴える。

物流を支えるドライバーの多くは50代以上。1989年に「24時間戦えますか」という栄養ドリンクのCMのキャッチコピーが流行語大賞を取った時代に、業界に入った世代だ。

「30年以上経った今、ベテランとなった彼らが、かつてと同じように稼ぎたいと声を上げている。しかし安全運転や人権問題とのバランスを考えねばならない」(橋本氏)

芸能界でも深刻な過重労働

日本芸能従事者協会の森崎めぐみ代表理事は、芸能分野の過重労働の実態を報告した。

同協会の調査では、平均睡眠時間6時間以下が59.2%、労働時間に不安がある人が78.3%、自殺願望がある人が42.7%に上る。

2023・2024年度の過労死防止対策白書でも、芸能分野では休日が週1日未満が47.9%、月収20万円未満が45.2%、うつ傾向・不安障害が52.1%という深刻な数字が明らかになった。

「フリーランスとして働く芸能従事者の場合、兼業・副業時の労働時間を通算管理する仕組みがなく、最低賃金に相当する最低報酬制度も存在しない。生活のために仕事量を増やさざるを得ず、過重労働が常態化している」と森崎さんは訴える。

流行語大賞の選考過程に疑問の声

フリージャーナリストの竹信三恵子・和光大学名誉教授は、流行語大賞の選考過程に疑問を呈した。

「10月4日の発言から2日後には過労死弁護団等が抗議声明を出し、その後も相次いで批判が出ていたにもかかわらず、12月1日の受賞に至った。しかし受賞理由では、これらの批判について一言も触れられていない」

竹信名誉教授は、議論のある言葉を取り上げる場合、社会的リスクが指摘されていることをきちんと明示すべきだと主張し、以下のように続けた。

「過労死に対して何のコメントもないまま受賞を肯定してしまうほど、働く人への連帯感や共感を抱かなくなった社会の象徴ではないか」

精神障害の労災認定、6年連続で過去最多

厚生労働省の統計によると、2024年度の精神障害による労災認定件数は1055件と6年連続で過去最多を更新している。しかし、中原共同代表は「労災認定される割合は約3割に過ぎず、7割は泣き寝入りしているのが実情だ」と訴える。

「実際に認定された人の何倍もの人たちが仕事が原因で心身の健康を失っている。この状態で『働いて働いて、ワークライフバランスを捨てる』という発言は、社会的に最もふさわしくない」(中原共同代表)

配信元: 弁護士JP

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