◆出勤したら父親が会社に来ていた
「一瞬目を疑いました。なぜ父親が会社にいるのか皆目見当もつきませんでしたが、応接室で上司と何かを話していたようです。父親の視界には僕は入っていなかったようで、そのままどこかへ行ったようでした。上司も、特に父親が来たことについては何も触れずじまいで……」その日は父親の訪問が気になって仕方がなかった中村さんでしたが、定時までなんとか仕事をこなし、退社後、予約しておいた中華料理店に行き、久々に父親と再会します。
「父親は、会社で僕に目撃されていたことは知らなかったようで、僕が『なんで会社に来たの? 上司と何を話したの?』と尋ねると、一瞬困ったような顔をしましたが、『見つかったか。何も言わずに訪問してすまなかった。父さんな、上京ついでにあいさつに行ったんだよ』と、話してくれました」
事前に知らせてほしかった中村さんですが、心配させてしまった自分も悪いと思い、その後二人は久しぶりの食事を楽しんだそうです。
◆一変した上司の態度のワケは

「営業成績が芳しくなかったのは、僕の能力不足なのですが、上司からのひどいハラスメントもありました。何かにつけて他の同期と比べて叱責されていました。僕は、それに萎縮してしまって思うように動けず、ミスも連発していました。でも、気持ち悪いほど上司は柔和な態度に一変したんです」
中村さんは、とにかく自分のペースで仕事を進めることができるようになり、以前に比べ営業成績も上がったそうです。
「上司の態度が一変したのは、おそらく父親のせいだと思います。肩幅もがっしりして、人相が怖いんです。息子が言うのも何ですが……まるで極道のような雰囲気です。ただ、話し方は見かけによらず優しい感じなんです。とりあえず、今後は上司にも父親にも迷惑をかけないよう、しっかりと動けるよう頑張ります」
それからは営業も徐々に上向いてきたという中村さん。いまは人知れず父親に感謝しているそうです。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

