恐怖とユーモアが混在する本作は“現代の感情速度”そのもの

本作では、思わずハッとするような恐怖のシーンと、クスッと笑ってしまうユーモアの場面が混在している。これは映画の中のことだけでなく、現実としてそうなのだと監督は語る。
「インターネットやミーム文化そのものが、恐ろしく危険であると同時に、どこか笑ってしまうような、不条理で馬鹿馬鹿しい側面を持っていますよね。インターネットは笑えるし、残酷だし、そして“愚か”。そのすべてがあることを作中で表現すべきだと思いました」

ホアキン・フェニックスが演じる主人公のチグハグさも思わず笑ってしまう。正義があるのか、ないのか。良い人なのか、悪い人なのか。見方にもよるようにも思える。それは人間の本質なのかもしれない。そのキャラクターをホアキン・フェニックスが演じることに映画の面白さはある。
「ものすごく強くも見えるし、ものすごく弱くも見えるキャラクターという表現の幅広さが、まさしく彼の俳優としての魅力だと思います。俳優としてのホアキン自身が、とても面白く可愛らしい面と、同時に非常に強烈でダークな面の両方を持ち合わせている人物なんですよ。以前の作品でご一緒して友人になってから、彼の持つ人間としての幅の広さを知りました」
SNSと分断の時代において、“強さと弱さが同居する人間像”は、もはや象徴的なのだろう。そんなリアルを、名優がどう演じるか……。それは、映画というエンタメの面白さの根幹でもある。
映画は、いまの世界を理解するための「教科書」かもしれない

本作の鑑賞・そして監督のことばを通して見えてくるのは、現代が“あまりに速くなりすぎた世界”だという現実。そして、監督にはこう聞かれているような気がする。
「この速度で、私たちは本当に生きられるのか?」
映画を観るという行為は、ほんの少し世界のスピードを止め、自分の感情の位置を確かめる時間になる。映画は、大人にとって“世界を理解するための教科書”ともいえるだろう。

東京国際映画祭のジャパンプレミアで初上映された「エディントンへようこそ」。過去作よりグッと身近になったテーマに多くの観客が衝撃を受けた本作は、いよいよ今週末より全国公開だ。

ホアキン・フェニックスの名演技を支える共演にペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラーなどの豪華キャストを迎えた本作。注目作が放つメッセージを鑑賞後に自分がどのように受け取るのか、ぜひ確かめてほしい。
エディントンへようこそ
公開日:2025年12月12日(金)
公式WEB:https://a24jp.com/films/eddington/
