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妊産婦を支えるために必要な支援

「妊産婦こころの相談センター」に寄せられる声

――センターにはどんな相談が寄せられますか。

和田:匿名で電話をかけられるので、周囲に言いづらいことを正直に話してくれる人が多い印象です。よくあるのは、夫婦関係の悩みですね。

「働きながら子育てをしているのに、夫が協力的でない」という不満は頻繁に聞きます。ただ、じっくり話を聞いてみると、どちらか一方だけが悪いわけではなく、両者共に余裕がないのだろうと感じます。

――出産前の夫婦生活は順調に送れていたとしても、子育てが始まると関係がギクシャクする夫婦もいるんですね。

和田:慣れない子育てでお互いにストレスが溜まり、不満のぶつけ合いになってしまうんですよね。ここ数年で、男性育休の取得率が飛躍的に上昇しました。それ自体はよい変化ですが、夫婦が四六時中一緒に過ごすようになり、かえってストレスを溜める人が増えている印象もあります。

子育て環境も夫婦のあり方も激変している近年は、その変化に適応できない人も多いのかもしれません。

嶋田さん(母性内科副部長。以下、敬称/役職略):一見悩みのなさそうな人、SNSで順風満帆な生活を発信している人でも、実際にはかなり追い詰められている場合もあるかもしれません。

「こうあるべき」という基準がインターネットを通して可視化されることで、親しい人にすら、ありのままの姿を見せられない人が増えているのではないかと思います。

また、特に妊娠後に初めてメンタル不調となった場合、相談や受診のハードルが高くなりやすく、「どこに相談したらいいんだろう」「こんなことで相談してもいいのかな」と悩みがちです。そんなときに悩みを話せたり、専門的なケアにつながれる場所は大切だと思います。

妊娠から産後まで、切れ目のない支援を提供できる仕組みづくり

――「産後うつ」になる妊産婦を減らすには、どんな施策が必要ですか。

光田:妊娠、出産、子育てという大きなライフイベントは、妊産婦だけでどうにかできるものではありません。現代では、地域のつながりの希薄化や核家族化によって、親子を支えるセーフティーネットも失われつつあり、子育ての難易度が上がっています。

今後は、欧米では一般的である、妊娠中から出産前後の女性に寄り添い、家事や育児を手伝う「ドゥーラ」のような、妊産婦への伴走支援を行う職種や仕組みが求められていると思います。

こども家庭庁でも「医療・保健・福祉の切れ目ない連携」を推奨しているように、こうした支援の重要性は以前から指摘されています。それにもかかわらず、現場では支援が縦割りのままで、各機関の連携がうまく機能せず、初動が遅れがちです。それぞれの現場の人々はとても頑張っているので、仕組みを改善してほしいですね。

また、妊娠中から妊産婦さんを診る産婦人科と、赤ちゃんを診る小児科が連携を取りやすくなる仕組みも必要だと感じています。妊産婦さんの子育て状況を、赤ちゃんのかかりつけ医と共有することができれば、虐待や育児放棄などを減らせる可能性がありますからね。

――現状では、どんな職種や機関の人が妊産婦のケアにあたっているのでしょうか。

光田:「社会的ハイリスク妊産婦(※)」の方や、子育て困難の妊産婦さんの話を聞いてケアする役割は、産婦人科の医師やスタッフが担うことが多いです。

ただ、病院本来の医療的な機能とは重ならないところもあるため、半ばボランティアのようになっており、現場の運営に無理が生じているのが実情です。

  • 「社会的ハイリスク妊産婦」とは、さまざまな要因により、今後の子育てが困難であろうと思われる妊娠をした妊産婦のこと

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