子育て家庭を支えることは、社会の未来を育てること
――国が推進している「産後ケア事業(※)」の普及状況はいかがでしょうか。
和田:普及しつつあり、とても良い流れだと感じています。ただ、社会全体の認識として「妊産婦には特別なケアが必要で、みんなでそれを支えていくべきだ」という考えがもっと当たり前になってほしいです。
近年は「子どもを持つ、持たない」という立場の違いで分断が起こりがちですが、未来を担う子どもやその子たちを育てる妊産婦への支援は、社会的な意義がとても大きいはずです。
- ※ 「産後ケア事業」とは、市町村が、出産後1年以内の母子に対して心身のケアや育児のサポート等を行い、産後も安心して子育てができる支援体制の確保を行う事業のこと
――SNS上では「子持ち様論争」と呼ばれる、子どもがいることを理由に配慮を求める親を揶揄する動きも目立っていますね。
和田:「なぜ子持ちばかりが優遇されるのか」「子どもの看病で欠勤した人の仕事が、子どものいない自分に回ってくる」といった不満の声が頻繁に聞かれるようになりました。
しかし、これも「子どもがいる人が悪い」という話ではなく、仕組みの問題です。みんな必死で日々を過ごしているので、個人の親切心に頼るのは無理があります。こうした不満が出ないよう、職場であれば、フォローした人に手当を支給するといった、子育て家庭を助ける周りの人を支援する仕組みが社会全体に求められていると思います。
「子どもを産んだのは自己責任」「人に迷惑をかけるうるさい子連れは嫌だ」といった風潮が広がっていますが、子育てしにくい社会では子どもの数がますます減ってしまいます。今の時代に合った方法で「社会で子どもを育てる」という空気をつくっていく必要があるのではないでしょうか。
――そのために、私たち一人一人ができることを教えてください。
光田:まずは、妊産婦に適切なケアを提供し、子育て家庭が健やかでいられる環境を整えることの社会的なメリットをもっと知ってほしいです。
妊産婦が子育て困難になり、虐待や育児放棄をしてしまうと、子どもの将来的な精神不調や疾患のリスクが高まります。社会全体の発展や幸福度アップを考えるならば、やはり心身共に健康に生きられる人が増えるに越したことはないですよね。
妊産婦や子どもへの支援は、将来の社会を担う子どもたちが健やかに育ち、やがて自立して社会に貢献できるようにするための、社会に行う「先行投資」という見方もできるかもしれません。
「子どもがいる、いない」にかかわらず、みんなで協力し、子どもたちが幸せに生きられる社会をつくれば、みんなの人生がより豊かになると思います。そうした視点を持つ人がどんどん増えていってほしいですね。
妊産婦の方を支えるために私たち一人一人にできること
妊産婦の方が暮らしやすい社会をつくるために、社会全体や周囲の人たちに私たち一人一人ができることを大阪府立病院機構大阪母子医療センターの皆さんに伺いました。