AさんBさんそれぞれの相続額は?
ところで亡母の遺産は、預金8,000万円と実家の土地建物2,000万円の約1億円です。遺言書通りに分けると、Aさんは2,500万円、Bさんは残りの7,500万円を相続します。
なお法定相続人が2人のとき、相続税の基礎控除額は4,200万円です。相続税の計算は税理士の専業ですが、遺言書通りに遺留分を相続しても、Aさんもいくらか相続税の負担は必要でしょう。
Bさんの後悔
結局、Aさんの夫が「遺留分だけでももらえれば御の字だろう」とAさんをなだめて納まりました。
Bさんは落ち着きを取り戻した後、「子どもの教育費や自宅の購入資金などお金が必要なときに援助を頼めばよかった」「こんなことなら父が亡くなったときに、姉の話を頑なに反対するだけではなく、2次相続を検討しても良かった」と、母とお金についてしっかり話していなかったことを後悔しはじめました。
また、実家を相続したため、固定資産税などの諸税や維持管理費の負担が、将来家計にどのくらい影響するか気になりはじめました。
遺言書の重要性は周知されているものの…終活の実態
(公財)日本財団「遺言・遺贈に関する意識・実態把握調査要約版(2025年)」によると、60代70代の2,000人に調査したところ、相続トラブルを防ぐためには、「相続対象となる財産の内容を普段から整理しておくこと」64.3%、次に「遺言書を書くこと」55.4%、の順で必要とされます。
同調査で遺言書の準備状況について、「すでに公正証書遺言書を作成している」1.7%、「すでに自筆証書遺言書を作成している」1.7%と、すでに作成している人は3.4%で、「しばらく作成するつもりはない」34.1%、「今後も作成しない」45.9%と、作成予定のない人は80%です。まさに言うは易く行うは難しでしょうか。
相続は、親の考えと子どもの意見のすり合わせが不可欠です。不要な資産は親が生前に処分して、念のために遺言書を作成して黄泉に旅立つ……これを怠ると、残された家族が揉める可能性がグッと高まります。
遺言書の準備は、手間と時間がかかっても、避けてはいけない終活の一部なのです。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
