
1997年のアジア通貨危機の際、国家財政の破綻を防ぐべく、外資誘致のために不動産取得規制を大幅に緩和した韓国。しかし現在、外国人による韓国不動産の「爆買い」が安全保障上のリスクや、国内の厳しい融資規制を受ける自国民との「逆差別」問題として浮上し、一転して規制を厳格化する動きをみせている。本記事では、韓国における外国人不動産取得規制の変遷と最新動向、そして日本人が韓国不動産を取引する際に知っておくべき手続きの壁について、国際司法書士の中村圭吾氏が解説する。
外国人による「不動産爆買い」、韓国政府が待ったをかける
歴史的背景:1997年通貨危機で「許可制」から「届出制」へ
韓国では当初、1961年に制定された「外国人土地法」により、外国人の不動産取得は政府の事前許可が必要とされていた。無許可の取引は無効となる強力な規制であったが、転機となったのは1997年のアジア通貨危機だ。
国家財政が破綻寸前に追いやられるという空前の国難を前に、外国資本の誘致が急務となった韓国政府は、1998年6月に法改正を実施。それまでの「事前許可」制を「事後申告」制へと大幅に緩和する法改正を実施。軍事施設や文化遺産保護区域などの特定地域を除き、それまでの「事前許可制」を「事後申告制」へと大幅に緩和した。これにより、取得後60日以内(売買契約は30日以内)に届出をするだけで土地取得が可能となったのである。
外国人に対する監視の目が強まったワケ
しかし現在、その副作用が顕在化している。安全保障上の懸念や、韓国内の厳しい融資規制を受ける韓国の国民との「逆差別」などが問題視されるようになったのだ。これを受け、本年8月には首都圏の住宅取得における事前許可制や2年間の実居住義務を導入(通称“2年ルール”)。さらに、外国人が国内不動産を売却する際には、譲渡所得税の申告・納付を担保する「不動産譲渡申告確認書」の添付を義務付けるなど、登記手続きにおいても厳格化が進んでいる(規制の詳細は後述)。
市場を揺るがす「安保リスク」と「逆差別」
安全保障上の脅威となる可能性が指摘される契機となったのは、2018年12月に中国政府がソウル市龍山区梨泰院一帯の約4,162m2(約1,256坪)を300億ウォンで購入した事件である。この土地は、大統領執務室や大統領官邸、韓国政府に返還される予定の米軍龍山基地跡(旧キャンプ・コイナー)という重要施設から約1キロ前後の地点に位置する。にもかかわらず、2025年5月に至るまで6年以上ものあいだ、この取引は国民に知らされていなかった。
尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領(当時)は2022年5月に大統領の執務室を龍山区に移転したが、中国政府による土地取得が明らかになっていれば、龍山区への移転を進めていたのかどうかについても疑問が残る。この土地に建物はまだ建てられていないが、諜報・偵察活動の拠点として活用されるのではないかと懸念する指摘がある。
一方、2022年以降、首都圏の住宅市場では、住宅取引が持続的に増加するなかで、投機的な動きが目立つ。高価な住宅を現金で購入したり、未成年者が不動産を取得したりしているのだ。
国土交通部が本年11月に発表した調査(2024年6月〜2025年5月対象)によると、外国人による違法疑い事例438件を調査した結果、47.9%にあたる210件の取引で違法行為が発覚。
1.海外資金の不法持ち込み
2.無資格賃貸業
3.取引金額および契約日などの虚偽申告
4.仮装贈与
などが含まれているという。韓国政府は、調査を継続するとともに、関係省庁と協議をして外国人による違法土地取引に対して、法的な制裁に乗り出す構えだ。
特に問題視されているのが、資金調達における「逆差別」だ。内国人(韓国人)は国内金融機関から融資を受ける際、LTV(住宅担保貸出比率)やDSR(総負債元利金償還比率)などの厳格な規制を受ける。対して外国人は、規制の緩い自国の金融機関で資金を調達することで、韓国の厳しい融資規制を回避できる状態にあるため、批判が強まっているのである。
