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揺らぐ、米国経済。米ドル代替の危機?…中国が台頭も、「人民元」がどうしても越えられない“壁”の正体

揺らぐ、米国経済。米ドル代替の危機?…中国が台頭も、「人民元」がどうしても越えられない“壁”の正体

基軸通貨として絶対的な価値を持ってきた米ドルに対し、近年では代替通貨に注目が高まっています。しかし人民元、ユーロなどへの資本分散が進んでもなお、米ドルから脱却できない現実があります。その理由には、現在の政治・経済状況によって形成された安定志向が影響していると考えられるようです。本記事は、塚本憲弘氏の著書『資産運用の論点2026』(日経BP)より、国際通貨の勢力図を中心に最新のトレンドを解説します。

米ドル代替の可能性と限界、基軸体制の揺らぎと代替通貨の動き

現在の国際金融秩序では、米ドルが基軸通貨(世界の貿易や金融取引の中心として使われる通貨)の地位を占めています。しかし、この「ドル基軸体制」の安定性に対して揺らぎが意識される局面が増えており、注目されるのが人民元やユーロといった代替通貨の動向です。

中国の人民元国際化の取り組み

中国は、自国通貨である人民元(RMB)を国際通貨として浸透させるため、以下の施策を進めています。

SDR構成通貨への採用:

IMF(国際通貨基金)のSDR(Special Drawing Rights:特別引出権)は、加盟国が外貨不足時に利用できる国際準備資産で、その価値は主要通貨のバスケットで決まります。2016年に人民元が正式に採用され、ドル・ユーロ・円・ポンドと並ぶ「国際通貨」としての地位を得ました。

二国間通貨スワップ網の拡充:

通貨スワップ協定とは、二国間で自国通貨と外貨を交換できる枠組みです。中国はアジアや新興国を中心にネットワークを広げ、人民元決済の利便性を高めています。

国際決済インフラの整備(CIPS):

国際送金システムとして有名なSWIFTに対抗し、中国は独自の人民元決済システムCIPS(Cross-Border Interbank Payment System)を整備しました。これにより、ドルを介さない決済ルートを拡充しつつあります。

資源輸入の人民元建て決済:

中国は石油や天然ガスなどの資源輸入をドル建てではなく人民元建てで行う動きを強めています。特に、中東やロシアとの取引で人民元決済の利用が広がりつつあります。

制約と限界

こうした取り組みにもかかわらず、人民元の国際的な存在感は依然として限定的です。外貨準備における人民元比率は依然2%台にとどまり、国際決済シェアも数%に過ぎません。

最大の制約は、資本移動が自由化されていないことです。すなわち、中国国内から自由に資金を移動できないという規制が残っているため、国際投資家や各国政府が人民元を安心して保有しづらいのです。

人民元は国際化に向けた歩みを着実に進めていますが、資本自由化の壁や信認の問題が残り、米ドルに代わる完全な基軸通貨となるにはまだ大きな距離があります。そのため現時点では、ドルの優位性を補完する「部分的な代替通貨」という位置づけにとどまっています。

ユーロは外貨準備の約20%を占め、ドルに次ぐ存在感を持ちますが、域内の成長力不足や政治分断が制約となっています。日本円や英ポンドも信認は高いものの、利用は限定的です。

一方、金(ゴールド)の役割は再評価されており、信用リスクを持たず制裁下でも価値を保持できる資産として、中銀の保有が増加しています。

米ドルは依然として「唯一無二」の基軸通貨

対照的に米ドルは、単なる最大経済圏の通貨というだけではなく、国際金融システムにおける「公共財」としての役割を果たしています。ドル建て決済市場の厚み、国債市場の圧倒的な流動性、そして独立した司法制度に支えられる法的安定性は、他通貨に比べ群を抜いています。

これらの制度的基盤とネットワーク効果が重なり、各国はドルを手放すどころか、危機時にはむしろドルを求める「質への逃避」が起こるのです。したがって各国が進めているのは「ドルの放棄」ではなく「ドル依存度の分散」であり、人民元やユーロ、そして金はその補完的な選択肢にすぎません。

米国市場の規模・流動性・法制度の厚みは他国を圧倒しており、ドルに完全に代わる通貨は当面存在しません。ドルは依然「唯一無二」の存在である一方で、各国はドル依存のリスクを回避するために外貨準備を分散し、金を積み増しています。つまり、現状は「ドル代替」ではなく「ドル分散」の時代が進んでいるのです。

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