◆かつて「野猿公園」で餌付けされていた猿の子孫たちか

「50年前にロープウェイが営業していて、山頂のモンキーランドでは餌づけしたサルを観光客相手の見せ物にしていた。その後、廃業になったモンキーランドのサルの子孫が街に下りてきている。生まれつき人馴れしているサルなのに、世代を経るごとに進化している気さえします」
この見方に、サルの生態に詳しい石川県立大学特任教授の大井徹氏も頷く。
「サルが人里に下りてくるのは、栄養価が高くておいしい農作物がたくさんあるから。また、湯河原など地域によっては1970年代に造られた野猿公園で餌づけされ、人馴れが進んだことも大きい。廃園で餌を与えられなくなったサルは人里に流れ込み、学習しながら“都市型サル”として適応していった可能性があります」
◆旅館の廃墟を根城にサルが温泉街に出没!?

散歩中の初老男性に聞いた。
「廃墟のサルがようやくいなくなったと思ったら、今度は山側の旅館の廃墟に移動して、そこを根城に営業中の旅館の露天風呂に出没しているらしい。初めは『可愛い』と言っていたお客さんも、2匹、3匹と増えていくと、怖くなって逃げ出したと聞きます」
飲食店の店主は、苦々しげにこう話した。
「廃業した旅館の非常階段や渡り廊下がサルの通り道になっていて、山と温泉街を行き来してる。だから、追い払っても効果がない。今のところ、ケガ人は出てないようだけど、廃墟となった旅館やホテルを一掃しないと、サルはいなくならないんじゃないか」
水上温泉は北関東有数の温泉街として栄えたが、バブル崩壊で多くの宿が廃業に追い込まれ、大型ホテルが廃墟となって残された。サルの被害は、人災の側面もあるのだ。
ここへきてインバウンドの増加や観光客のマナー悪化によって、別府温泉や地獄谷温泉、伊香保温泉や宇奈月温泉などでもサルの被害が急増しているという。
クマに比べれば軽微と考えがちだが、サルの危険性は侮れない。前出の大井氏が警鐘を鳴らす。
「サルの犬歯は鋭く、爪は鋭くないものの力が強い。引っ掻かれると大きな傷になりかねない。また、かまれたり、引っ掻かれると狂犬病など感染症のリスクがあります。特に危険なのがBウイルスで、致死性脳炎を引き起こす。日本では野生のサルからの感染は確認されていませんが、注意が必要です」
温泉旅行で遭遇したサルに、近づくのは禁物だ。

専門は動物生態学、野生動物保護管理学。サル、ツキノワグマの生態と保護管理を研究。著書に『獣たちの森』(東海大学出版会)など
取材/山本和幸 取材・文/齊藤武宏 写真/PIXTA 取材協力/相原幸典 土屋由希子
―[サルが温泉街で大暴れ中]―

