◆スマホから流れる動画の大音量にイライラ

「私は通路側の席に座っていて、少し休もうと目を閉じようとした瞬間、車内にスマホの大音量が流れたんです」
その日の新幹線は比較的空いていたが、“迷惑”な家族連れに遭遇したという。
「後方の席に中国人観光客と思われる家族がいて、母親が動画を再生し、父親もスマホに夢中。子どもたち二人は親の注意を受けることなく、自由に車内を動き回っていました」
長旅の疲れから休息を取りたかった奥井さんにとって、この状況は耐え難いものだった。
「とにかく少しでも眠りたかったのですが、動画の音と子どもの動きで落ち着けませんでした」
周囲の乗客たちも同様に不快感を示し、何度か振り返る様子が見られたという。しかし直接注意を促すような行動には出れず、状況は変わらないまま時間が過ぎていった。
◆予想外の展開
やがて車掌が巡回に訪れた。通常の検札と思われた巡回は、その家族の席で長く停滞した。「父親に何か確認しているようで、声が少し強め。母親は焦ったようにバッグをゴソゴソ探していました」
周囲の乗客たちの注目を集めるなか……。
驚くべきことに、なんとその家族は指定席券を持っていなかったのだ。父親は何かと言い訳を試みたが、車掌は淡々と説明を続けた。結果として、その家族は移動するように求められていた。子どもたちは状況を理解できていない様子だったが、両親は少々不満げな表情で荷物をまとめ、静かに出ていった。
「あれだけ騒がしかった一角がすっと静かになり、周囲の乗客の表情にもほのかな安堵が見えたのを覚えています」
<構成・文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo

