◆売上が1000万を越えるも、身体は疲弊
種藤さんが大学を卒業した’00年代前半は、グーグルやアマゾンが日本版サービスを始めたいわゆる「インターネット黎明期」。新聞社や出版社でも自社媒体を持つ流れが生まれ、紙媒体以外にウェブサイトのディレクション業務なども増えていった。「20代も終わりに差し掛かる時期には、売上だけで1000万円を超える年もありました。タウンガイドや企業の採用パンフレット制作、ウェブサイトの運営など複数の仕事をハイブリッド的にこなしていたら、そのぐらいの収入になったんです。売上=利益ではないものの、自分でも驚きました」
収入が増える一方で、マルチワーカーだからこその悩みも積もっていったという。
「とくに規模の大きな広告記事では、クライアントからの修正要求も多かった。1つの仕事が並行する仕事にも支障をきたすことが増えて、『今の状況をずっと続けていくとおかしくなる』と感じるようになりました」
悩みが深まっていた’10年、またも知人に誘われたことがきっかけで、新聞社系出版社で、エンタメ系冊子の編集を業務委託という形で受けることが決まる。一部の業務は継続しつつ、「三足のわらじ」生活にはいったんの区切りをつけることにした。
◆「常駐フリー」として仕事を始めるも、二度目の山が……
それまでは自宅や事務所で働くことが主だったが、この出版社では「常駐フリー」と呼ばれる立場になった。契約上は業務委託だが、編集部に机を持ち、打ち合わせや校了作業がある時に出社して、社員と同じように仕事をする。出版業界やIT業界でよく見られるスタイルだ。完全な在宅仕事に比べると拘束は増えるものの、報酬額は月ごとの取り決めであることが多く、単発で仕事を受けるよりも収入は安定しやすい。待遇面こそ悪くはなかったが、業務に慣れていくと、またもクライアントの要求に振り回されることが増えていったという。
「あるとき、徹夜で入稿作業を終えて一息ついていたら、表紙に登場するとあるグループのメンバーが逮捕されたというニュースが入ってきたんです。記事はすでに校了していたので『さすがに大丈夫だろう』とタカをくくっていましたが、先方から電話が来て『差替えです』と言われた時は途方に暮れました」
同時期、ウェブ関連の他案件を請け負うことが決まり、複数の仕事を並行していくことの壁に再び直面。この出版社との契約は、約2年で幕を閉じた。

