金銭的な余裕は精神的な余裕に
実は、カザンに投資用のマンションを買う少し前、別の物件も購入を考えていた。カザンの郊外に「リトル・トーキョー」と銘打った住宅地ができるということで、日本の住宅メーカーが建設している一戸建て住宅を見学に行ったのだ。
流暢な日本語を話すロシア人に案内された建築中の2階建ての物件は、当時のレートで、一棟1000万円程度。日本の建材を使い、エアコンなども日本製を使うということで、価格は少し高めだったため一旦は諦めた。
それから一年半後、再び「リトル・トーキョー」を見学に行った。一戸建てが180棟建つ予定と聞いていたが、すでに100棟は建っていた。未完成物件1800万円(内装工事費実費)。ほぼ完成物件2500万円。
契約の段階まで進んでいたが、ウクライナとの戦争の影響でルーブルの価値が急騰。外貨しか持っていなかった僕らは、資金が足りなくなり結果的にリトルトーキョーの購入を断念した。その後、近くに、価格が約半分の一軒家を見つけ、カザンへ引っ越すことにした。
ロシアでの僕たちの生活は、妻のおばあちゃんから譲り受けたキーロフにある古い家からスタートした。家賃はないので貯金はできたが、かなり古かったので、給湯器が壊れてお湯が出なくなり、ヤカンでお湯を沸かして子どもを入浴させるなんて生活を1年近く続けたこともあった。
妻は投資用物件をいくつか所有していた。家賃が安い築65年の「フルシチョフカ」もそのひとつ。「フルシチョフカ」とは、1960年代のフルシチョフ首相時代に政府によって建設された集合住宅のことだ。ロシアは地震がほとんどないので、これだけ古いマンションでもそれなりの価格で売れる。31㎡、450万円。ロシアでは平均年収が低いので、新築よりも安い中古マンションのほうが売れるのである。
その後、投資用のマンションを購入して賃貸収入を得ることができるようになり、一戸建て住宅の購入資金も捻出でき、お金に追われることがなくなった。何より、精神的にすごく楽になった。
精神的なゆとりができれば、自分にも家族にも、人にも優しく接することができる。20代、30代は好奇心が大切だったかもしれないが、家族をもった今は、つねに精神的ゆとりをもっていることが、大切だと思うようになった。
森 翔吾
