
「仮想通貨取引」で利益が出た場合、税金を納めなければなりません。利益額が大きくなればなるほど納めるべき税金の額も高くなります。ただ、せっかく得た利益をできるだけ多く手元に残したいと思うのは当然のことでしょう。そこで今回、仮想通貨取引の税金の仕組みや税金の負担を抑える方法について、税理士法人松本の代表税理士である松本崇宏氏が解説します。
仮想通貨取引にかかる税金とは
原則として、仮想通貨を保有しているだけでは、利益が発生したことにならないため、税金は課されません。しかし、利益で最終的に納税額が発生する場合は、確定申告により納税が必要です。
仮想通貨取引で税金の納付が必要になる場合
仮想通貨取引によって税金の納付が必要になるのは、以下のようなケースです。
・仮想通貨を売却して現金を受け取った
会社員などの給与所得者が年末調整を受けている場合、仮想通貨を売却し、20万円以上の利益が発生した場合、確定申告を行い、納税しなければなりません※。
※事業所得者や、給与収入が2,000万円を超える人、複数の給与所得がある人、主婦・学生など扶養家族になっている人などは、20万円以下でも所得税の確定申告が必要になる場合があります。また、住民税には「20万円以下は申告不要」という特例はないため、仮想通貨の所得(利益)が1円でもあれば、原則として住民税の申告は必要です。
・仮想通貨で商品代金を支払った
仮想通貨を使用して商品代金を支払った場合は、支払いのために仮想通貨を売却したものとみなされます。そのため、商品代金の額から仮想通貨の取得価額を差し引いた額が20万円を超える場合、確定申告が必要です。
・仮想通貨で別の仮想通貨を購入した
仮想通貨で別の仮想通貨を購入した場合も、新たな仮想通貨を購入するために保有していた仮想通貨を売却したとみなされます。したがって、新しく取得した仮想通貨の交換時の時価と保有していた仮想通貨の取得価額との差が20万円を超えている場合、確定申告が必要です。
・レンディング(貸付)やステーキング(貢献)で報酬を受け取った
仮想通貨を売買しない場合でも、レンディングやステーキングで報酬や利息を受け取った場合も、その額が年間20万円を超えれば確定申告が必要です。
仮想通貨で得た利益は雑所得に該当
仮想通貨で得た利益は、雑所得に分類されます。雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得のいずれにも該当しない所得のことです。
仮想通貨で得た利益のほか、公的年金や原稿、講演料として受け取る所得などが雑所得となります。
雑所得は総合課税の対象
雑所得は、総合課税の対象となります。総合課税とは、給与所得やその他の所得と合算した所得の合計額に対して、所得税の税率をかけ、所得税額を算出する課税方式です。
所得税は、以下の表のように、所得額が多くなるほど高い税率が課される累進課税制度が採用されています。そのため、給与所得など、仮想通貨取引以外にも高額な所得を得ている場合は、納付すべき税金が高額に上がる可能性がある点に注意しなければなりません。
[図表1]所得税の税率 参照:国税庁「所得税の税率」
他の所得との損益通算はできない
損益通算とは、原則的に同じ年に発生した利益と損失を相殺することです。
たとえば、不動産投資をしている会社員の場合、リフォーム工事などを行うと、空室期間が長くなるため収入減となり、リフォーム費用も発生するため損失が発生するケースがあります。そのような場合、損益通算をし、給与所得から不動産所得で生じた損失を差し引くことが可能です。
給与所得から不動産所得の損失を差し引けば、課税所得が圧縮されるため、課税される税金を低く抑えることができます。
しかし、損益通算が行える所得は、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得の4つの所得のみです。雑所得は損益通算の対象とはならないため、会社員が仮想通貨取引において損失を生じさせた場合においても、給与所得と損益通算を行い、税金の負担を抑えるといった抜け道は用意されていません。
仮想通貨取引の税金負担を減らす節税テクニック
仮想通貨取引の税金の負担を軽減できる可能性がある節税テクニックを4つご紹介します。
1.含み益のある通貨を分散して売却する
仮想通貨を保有しているだけで税金が課されることはありません。税金の負担が発生するのは、利益を確定させたタイミングです。そのため、含み益のある仮想通貨を一気に売却した場合は、大きな利益が発生し、納めるべき税金の額も高額に上ります。
したがって、含み益のある通貨は、1年でまとめて売却するのではなく、複数年に分けて売却すると、納税額を抑えられる可能性があります。
2.含み損のある通貨の売却タイミングを見極める
仮想通貨に対して課される雑所得は、他の所得との損益通算を行うことはできません。ただし、複数の仮想通貨を保有している場合、含み損のある仮想通貨を売却することで、他の仮想通貨の売却等による利益を圧縮し、節税につなげることができます。つまり、仮想通貨取引のなかで、利益と損失の損益通算を行うと、課される税金の額を低く抑えることができるのです。
したがって、保有している仮想通貨が取得時よりも値上がりし、利益が出ているときにその通貨を売却し、取得時よりも値下がりしている通貨を売却すると、課税所得を低く抑えられます。
3.仮想通貨取引にかかった経費を漏れなく計上する
所得税は、所得に対して課される税金です。収入から必要経費を差し引いた金額を所得金額といいます。必要経費の額が大きければ、収入からより多くの額を差し引けるため、課税所得は圧縮され、課税される額も低くなります。
仮想通貨取引のためには、パソコンの購入費用やインターネット回線の通信料などの費用が発生します。仮想通貨取引のためだけに購入したパソコンであれば、購入費用の全額を経費として計上することが可能です。
また、インターネットの回線費用についても、仮想通貨取引のためだけにインターネットを使用しているのであれば、回線料金を全額経費として計上できます。
しかし、プライベートにおいてもパソコンやインターネット回線を使用している場合もあるはずです。その場合、パソコンの購入代金やインターネット回線費用を全額経費に計上することはできません。
仮想通貨取引とプライベートでパソコンやインターネット回線を兼用しているときには、仮想通貨取引に使用している割合とプライベートの使用割合(時間)を算出し、仮想通貨取引に使用している分だけを経費に計上することが可能です。
また、仮想通貨取引に関する書籍を購入したり、セミナーに参加したりすることもあるでしょう。仮想通貨取引に関連する書籍の購入代金やセミナーの参加費用、セミナー開催場所に行くためにかかった交通費などは、経費計上が可能です。
ただし、経費に計上する支出に関しては、領収書など、支払いがあったことや支払金額を証明する書類を保管しておく必要があります。もし、領収書がない場合、架空の支出を経費として計上していると判断される可能性もあるため、領収書は必ず保管しておくようにしましょう。
