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「まさか」が現実に…全国で1日7件の下水道陥没事故、八潮市の大規模陥没は「見えない地下のカオス」の警告

「まさか」が現実に…全国で1日7件の下水道陥没事故、八潮市の大規模陥没は「見えない地下のカオス」の警告

◆気候変動が加速させる劣化と「見えない圧力」

 まだ終わりを見せぬ猛暑でも顕著なように、近年の気象の変化も、これまでのインフラ設計の前提を揺るがしつつあるという。

「集中豪雨や台風の大型化が続く中、都市の下水道にも想定を超える水圧がかかる場面が増えています。一度に大量の雨が降ると、管の内部は急激に水で満たされ、設計上の流量をはるかに上回る圧力がかかり、継ぎ目からの漏水や管の破損につながる可能性があります。

 今夏の猛暑のような気温の変化も無視できません。真夏の猛暑日が増えると、地表温度が上昇し、それが地下10メートルほどまで伝わることが分かっており、これが下水道管に負荷をかけ、長年かけて劣化に繫がることもあります。気象変動の影響は局地的かつ断続的に表れ、こうした変化が下水道のような長寿命を前提とするインフラにとっては、ときに設計思想そのものを揺さぶる存在になります。

 下水道管の内側は普段、小川のように静かに水を流していますが、一度想定を超える流入が起きれば、複合的な現象が一気に起こり、事故に繫がるおそれがあります。しかもそれは、管の状態や点検の記録だけでは予測できない変化でもあります。今後は『いつ壊れるか』だけでなく、『壊れたときにどれだけの影響が出るか』という視点を、制度や管理体制の側にも組み込んでいくことが必要です」

◆流域下水道という「手負いの龍」

 八潮市で発生した陥没事故は、中川流域下水道という広域インフラの幹線で起きた。流域下水道は複数の市町村から排出される生活排水や工業排水を一つの大規模な処理施設で処理する「広域処理型」の下水道システムで、人口増加や産業活動の拡大に対応するために高度経済成長期に全国各地で導入された。埼玉県と大阪府は「東の埼玉」、「西の大阪」として、この先進的な広域処理の取り組みが注目を集めていたエリアだ。

「かつては先進的な広域処理のシステムとして注目を集めた流域下水道ですが、八潮の事故は、この広域インフラの弱点を浮き彫りにしました。事故発生後、埼玉県は中川流域下水道を利用する11市4町のうち9市3町、約120万人に対し、下水道の使用を自粛するよう要請しました。生活排水の使用を控えるよう求められることは、都市生活において極めて異例の事態です。この要請は2週間にも及び、広域で下水処理を集約していることの影響の大きさが明らかになりました。

 流域下水道は運転コストや人件費を抑えられる強みがある一方で、今回のように幹線管にトラブルが発生すると、その影響は広範囲に及び、単独公共下水道と比べて復旧にも時間がかかります。特に処理場に近い幹線では、大量の下水が高速で流れているため、ひとたび破損が起きれば被害の拡大も早く、深刻化しやすいのです。

 下水道が機能不全に陥ると、私たちの暮らしには深刻な影響が出ます。単に排水を処理するだけでなく、「街を浸水から守る」「水環境を守る」「衛生的な暮らしを守る」といった社会生活の根幹を支える役割を担っているからです。八潮市の事故直後には、県が市民に入浴や洗濯の自粛を呼びかけ、衛生的な生活環境が一時的に損なわれました。また、塩素消毒のみを施した下水が新方川へ放流され、水質環境への影響も懸念されました。もしこの事故が梅雨や台風の時期に発生していたら、大雨によって雨水が適切に排水されず、地域一帯が内水氾濫に見舞われていた可能性もあります。

 中川・綾瀬川流域は標高10メートル以下の低地が広がり、洪水が起きると河川の水位が周囲の地面より高くなりやすく、水が流れ出せずに溜まってしまう特性があります。市街地化の進行により、雨水が地下に浸透しにくくなった結果、内水氾濫が発生しやすくなっています。流域の浸水想定区域は約210平方キロメートル、人口にして180万人、想定される被害額は約26兆円にのぼります。

 この事故は、目に見えない地下のインフラが、都市の暮らしを根底から支えているという事実を思い出させてくれました。流域下水道という地下に潜む龍は、その存在を忘れられ、老朽化と管理の難しさから『手負いの龍』となりつつあります」


配信元: 日刊SPA!

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