◆制度の限界と持続可能性への問い
「下水道管発の事故を防ぐには、地下で起きている「静かな変化」をいかに早く察知できるかにかかっています。2015年の下水道法改正はそのための制度的対応でしたが、点検基準が整備されることと、それを着実に運用できるかは別の問題です。2040年代には建設から50年を超える老朽管が約40%に達する見通しの中、点検の対象区間は今後さらに増大します。加えて、腐食や老朽化だけでなく、軟弱地盤、埋設物の密集、気候変動による急激な雨量の変化といった複合的リスクも加わりつつあります。そのため、点検対象の選定には、耐用年数だけでなく、「事故が起きた際の影響の大きさ」「地下構造の複雑さ」「地盤の脆弱性」「気象の変動傾向」など、より広範な視点が求められています。
しかし、点検を担う自治体や現場の体制は決して万全とは言えません。多くの自治体では技術職員の高齢化や定員削減により、専門的な知見を持つ職員が不足しています。点検には多大な作業工程と費用がかかり、特に中小規模の自治体では余力がなく、外部委託に頼らざるを得ない場面も増えています。財政面の課題も深刻で、点検費用が年間予算を圧迫し、補修工事の予算化が翌年度に回されるなど、対応が後手に回る例も少なくありません。
そして、制度が整えば安心とは限りません。八潮で起きたことは、むしろ制度がきちんと機能しているとされた地域で起きた事故でした。その意味で、この出来事は私たちに問いを突きつけています。制度は、どこまで私たちの暮らしを守れるのか。制度に『頼る』だけでなく、自らの足元に潜むリスクを『見つめる』覚悟が、いま必要なのではないか──と。八潮は未来の予兆だったのか。それとも、まだ選び直せる岐路なのか。この問いにどう向き合うかが、これからの下水道行政と都市インフラの在り方を左右していくはずです」
<取材・文/日刊SPA!編集部>

