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介護講師が教える「介助のやり方が違う問題」との向き合い方

介護講師が教える「介助のやり方が違う問題」との向き合い方

手順どおりの作業よりも大切なもの

高橋先生_取材風景2

──医療機器メーカーに勤めながら介護のアルバイトをして、戸惑ったことはありましたか?

訪問介護のアルバイトで痛い目を見たことがあります。

医療機器メーカーでは、納期や安全性など厳格な基準がありましたから、介護現場でも手順どおりに完璧にこなすことを目指していました。ある訪問先で、マニュアルどおりに入浴介助をおこない、時間も守り、事故もなく終えたのですが、事務所に戻るとサービス提供責任者から「高橋さん、あのご家庭の担当は別の者に変更になりました」と告げられたんです。

──なぜ担当を外されたのですか?

ご家族への対応が良くなかったんです。訪問先で息子さんから「父はどうでしたか」と聞かれましたが、もう次の現場のことを考えていて、上の空で返事をしていたんです。そこで、介護職の仕事はマニュアルどおりの作業ではなく、いかに「生活の支え」となるかが重要だと痛感しましたね。

「前の施設と違う」にどう向き合うか

──なぜ、医療機器メーカーを辞めて介護職に就いたのでしょうか?

メーカーで担当していたプロジェクトが一区切りついたので、自分の中で「もう十分やりきったな」という感覚を持てたんです。早期退職制度があったので、これは良いタイミングだと思い退職を決め、50代で新人介護職として介護付き有料老人ホームに入職しました。

──それから、7年間で5施設も経験されています。医療機器メーカーは約26年間続けていましたが、なぜ施設を転々とされているのでしょうか。

さまざまな考え方を身につけたかったので、一つの職場にとどまろうとは思わなかったんです。

前職では、海外の技術者と安全基準を巡って議論したこともありました。国が違えば設計上の考え方も違ったので、最初は互いに「自分たちが正しい」とぶつかり合っていました。しかし議論を続けるうちに「相手の考え方も正しいんじゃないか」と気づくようになったんです

同じ目的でもアプローチの仕方は無数にあります。だからこそ、何かを学ぶときは別の視点も取り入れるべきと考えたんです。

──介護の現場でも、施設によって考え方が違いますよね。

ええ。例えば流動食を食事とみなして食後に水分を促す施設もあれば、水分とみなして追加水分は不要とする施設もあります。前者は脱水予防、後者は水分過多の防止。ケースバイケースなので、どちらが正しいと言い切ることはできませんが、どちらも「ご利用者さまのため」という目的は同じです。

──複数の施設を経験して、考え方の違いに戸惑ったことはありませんか?

その違いこそが、介護職のおもしろさだと思います。「やり方が違う」と拒絶するのではなく、「なぜそのやり方なのか」を考えてみる。一度相手の意見を受け入れることで、自分の知識の引き出しが増えます。それを楽しむ姿勢があれば、ずいぶん楽になりますよ。

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