観光依存からの脱出
軽井沢の特徴は、観光・宿泊だけでなく、教育・農業・ITを含む多層型な収益構造を築いた点にある。
これは企業における「事業ポートフォリオ経営」に近い。ある産業が不振でも、別の領域が地域経済を支える仕組みだ。
加えて注目すべきは、地域外の知的資産を取り込みながら進化し続ける「オープンイノベーション型地域経営」になっている点である。
IT企業のサテライトオフィス進出や研究者・クリエイターの集積は、「富を消費する町」から「価値を創造する町」への転換を象徴している。
また、「軽井沢」という地名自体がブランド化し、不動産、食、観光、教育に横断的に展開され、地域産品のプレミアム化を後押ししているといえるだろう。近年の成功例としては、軽井沢高原野菜やクラフトビール、ワインなどのブランド戦略が挙げられる。
不動産会社の担当者はこう語る。
「別荘向け建築だけでなく、移住用・長期滞在用の住宅需要が急増しています。最近は起業家からの問い合わせも本当に増えています」
軽井沢の経済は、観光に依存しない地域経営システムへ確実に進化したといえる。
“軽井沢モデル”の模倣は可能か?
一方で、課題も当然存在する。
地価や物価の高騰は地元住民の生活を圧迫し、観光の季節変動により雇用が不安定になる業種もある。さらに、ブランド価値を維持するには、環境保全やインフラ整備への継続的な投資が欠かせない。
軽井沢の魅力を守りながら、誰もが安心して住める町にするための「共生戦略」が、今後の焦点となるだろう。
軽井沢の進化は、「観光地が知的リゾート経済圏へ変貌するプロセス」を明確に示している。
カギとなったのは、
・自然
・文化
・知性
・ブランド
という4つの無形資産を統合した点だ。これらは物理的なモノでないだけに再現が難しく、他地域には模倣されづらい「知的資本」だといえる。
今後期待されるのは、地元企業との共同ブランド開発、産学連携による教育都市化、企業誘致と地域共創プラットフォーム化といった「知的経営」のさらなる深化だ。
軽井沢はすでに「観光地」という固定観念を超えた。軽井沢はいまや、見えない資産が利益を生む地域経営モデルとして、進化を続ける知的リゾートなのである。
鈴木 健二郎
株式会社テックコンシリエ 代表取締役
知財ビジネスプロデューサー
