M&A後「残存少数株主がもたらすトラブル」の実例
M&Aが成立した後も、敵対的少数株主が残存している場合には、買主が新たな法的リスクに直面します。以下は実務で典型的な類型です。
●会計帳簿閲覧謄写請求権の行使
敵対的少数株主が新経営陣を牽制するために会計帳簿閲覧謄写請求を行い、会社の内部情報を詳細に把握しようとする例があります。M&A後の経営判断への批判材料を収集する目的で行使されることもあります。
●反対株主の株式買取請求権の行使
組織再編手続(合併、株式併合、株式移転等)などに反対した少数株主が株式買取請求権を行使する場合には、比較的高額な株式買取価格で株式を買い取らなければいけなくなる傾向にあります。裁判所が、反対株主の株式買取請求権の場合においては、株価についてマイノリティ・ディスカウントや非流動性ディスカウント、配当還元法の考慮を認めない傾向にあります。買主としては、組織再編手続(合併、株式併合、株式移転等)などを実行しにくくなったり、予期しない金銭的負担を強いられる可能性があります。
●株主代表訴訟・経営への継続的介入
少数株主は1株でも保有していれば、株主代表訴訟を提起して、役員の責任を追及することが可能であり、M&A後の経営判断について、敵対的少数株主が社長や経営陣の経営責任を追及したり、役員選任や事業方針に反対し続けたりすることで、買主の事業計画が進まなくなることがあります。
【典型例】
対立の噴出によりM&Aが破綻、さらに損害賠償請求へ発展
ある卸売業では、創業者の従兄弟が約5%の株式を保有していましたが、その従兄弟は過去の経営判断に強い不満を抱いていました。売主が株式買取りを打診したところ、従兄弟は「M&A価格を上回る金額でなければ売らない」と主張し、交渉は停止。買主は、M&A後も対立が継続する可能性を懸念して撤退し、結果としてM&Aは不成立に終わりました。
法的手段が存在しても「即時解決」にはつながらない
敵対的少数株主への対応として、株式売渡請求、株式併合、株式交換などのスクイーズアウト(少数株主排除)を検討することはできます。しかし、これらはいずれも対価の相当性を巡って紛争化する可能性が残ります。反対株主が株式買取請求を行使した場合には高額での株式買取価格が認定される傾向があり、買主側の負担が大きくなります。
したがって、M&A実行段階で敵対的少数株主の問題を短期間で解決することは現実的ではないことがあり、事前の株主構成把握と、平時から、潜在的対立要因の解消作業が不可欠です。
