◆共感重視が奪った「特別感」
音楽番組の演出もそれを物語っています。たとえば、画面右上に「恋や仕事に頑張る人たちの背中を押す歌詞に注目」みたいなテロップが出る状況では、“大物”など生まれるはずもないのです。
アーティストとファンの距離が近すぎることは、音楽から特別なオーラを失わせます。
行きすぎたカスタマーファーストによって、音楽シーンは人材難に陥っているわけです。
◆紅白が直面する“行き詰まり”
古い世代は使いきり、新しい世代はそもそもそのように育てられていない。これが、いまの紅白が見舞われている困難の正体です。
以上の観点から、近年の紅白が頼りにしてきた大物のサプライズ出演は、限界に達したと言えるでしょう。
インフラ崩壊は、こういう形でも露呈するのです。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。X: @TakayukiIshigu4

