人間心理の落とし穴「比較の魔力」が奪う幸福感
岡本さんの後悔の根本には、行動経済学でいう「参照点依存性」と「フォーカシング・イリュージョン」が働いています。
参照点依存性というのは、絶対的な判断に基づいて物事の価値を測るのではなく、参照点(別の物事の価値)との比較によって価値を測る心理的な傾向のことです。岡本さんの築いた3,000万円の老後資産は平均額以上のものですが、同期の矢崎さんの2億円と比較することによって満足感が得られないことになってしまっています。
フォーカシング・イリュージョンというのは、一部の要素だけに焦点が当たり、他の要素の価値が見えなくなっていることをいいます。岡本さんには、3,000万円と2億円という資産額だけに焦点が当たり、矢崎さんが払った代償や自分の持っている妻や孫との平穏で幸せな生活の価値が見えなくなってしまっています。
冷静に考えてみましょう。もし岡本さんが矢崎さんと同じ投資をしていたら、本当に同じ結果が得られたでしょうか? 答えは「ノー」です。
投資における成功は、単に商品選択だけで決まるものではありません。リスク許容度、投資期間、そして何より「継続できる精神力」が重要な要素となります。岡本さんの慎重な性格では、仮想通貨の激しい値動きに耐えられず、途中で投げ出していた可能性が高いのです。
また、矢崎さんの成功は結果論に過ぎません。同じ時期に仮想通貨投資を始めた人の中で、2億円まで増やせた人はごく少数です。損失を抱え、中には老後資金を失った人もいるはずです。
投資の本質は「自分らしい豊かさ」の実現にある
では、岡本さんはどう考えるべきなのでしょうか。投資の本当の目的を思い出してみましょう。
岡本さんが投資を始めた理由は「安心できる老後を送りたい」というものでした。その目標は十分に達成されています。月20万円超の年金に加えて3,000万円の資産、それに退職金があれば、平均的な老後生活費(月28.7万円「家計調査報告家計収支編2024年」総務省統計局)を考慮しても、ゆとりある生活が可能です。
仮想通貨投資を完全に否定する必要はありません。ただし、それは「余裕資金の一部」で行うべきものです。重要なのは、自分の価値観とライフスタイルに合った投資スタイルを見つけることです。岡本さんのような堅実派には、リスクを抑えた分散投資こそが最適解なのです。
実際、多くの資産運用のプロフェッショナルも、顧客には「boring is beautiful(退屈こそ美しい)」という投資哲学を勧めています。ギャンブルのような派手さはないけれど、着実に資産を築く。これこそが真の投資の姿なのです。
