
資産形成を考える投資家にとって、「為替ヘッジ」は安定性を左右する重要なテーマです。そのなかでも日本円は、他通貨とは異なる“特殊な動き”を見せることから、ヘッジの有効性を考える際に欠かせない要素となります。そこで今回は、『資産運用の論点2026』(日経BP)著者の塚本憲弘氏が、為替ヘッジの基本的な考え方と日本円の特性を踏まえた実践的な対応策について解説します。
理想の資産形成に一歩近づく「通貨分散」
日本円で収入を得ている個人投資家の場合、資産全体では円に大きく偏っています。そのため、運用資産で外貨建て資産を取り入れることで通貨分散が進み、結果としてポートフォリオ全体の安定性が高まることもあります。
運用目的が「資産形成」であるなら、為替変動を完全に排除しようとするより、「変動を含めたリスクの一部」として受け入れる姿勢が重要です。為替によるプラスもマイナスも、投資成果の一部だからです。
為替ヘッジをめぐる3つの考え方
為替ヘッジをどのように捉えるかについては、大きく3つの考え方が存在します。
第1に、「フルヘッジ」を支持する立場です。この考え方では、為替リターンは長期的にはゼロに収れんするとみなし、不要なリスクを極力排除することを優先します。特に利回りの小さい債券投資においては、数%の為替変動がリターンを帳消しにしてしまうため、ヘッジによる安定性の確保が重要とされます。
第2に、「ノンヘッジ」、つまりヘッジを行わないという考え方があります。為替リスクは長期保有によって平均化され、必ずしも遮断する必要はないという立場です。特に株式投資では、価格変動が大きく、長期的なリターンが為替変動を上回ると期待されるため、為替はむしろリスク分散の一部として活用すべきだとされます。さらに、ヘッジには金利差に基づくコストが発生し、長期投資ではその積み上がりがリターンを押し下げる点も無視できません。
第3に、「部分ヘッジ」の立場です。これは為替変動のすべてを遮断するのではなく、一定比率(たとえば50%)だけヘッジをかけるという手法です。円高でも円安でも「完全に失敗」とはならないよう、後悔リスクを軽減する狙いがあります。年金基金や保険会社などでもよく採用される実践的なアプローチです。
為替ヘッジは株式より債券が有効
株式は長期で2桁近いリターンが期待されるため、為替変動の影響は相対的に小さくなります。一方、債券は金利収入が主なリターン源であり、為替変動によるブレを抑える目的でヘッジが有効とされます。
ただし、これは必ずそうすべきという強い推奨ではなく、ポートフォリオ全体のどこかにヘッジを組み込み、その置き場所が債券に落ち着きやすい、という程度の理解でよいでしょう。ヘッジはコストと安心感のトレードオフであり、「自分が納得できる安定性」に見合う費用かどうかで判断します。
日本円は“特殊な動き”をする…「ヘッジ」活用で柔軟な資産形成を
日本円はリスクオフ局面で買われやすく、他通貨と異なる値動きをする傾向がありました。また、長期的な低金利環境ではヘッジコストが高くなりやすいという日本特有の事情もあります。そのため、為替ヘッジの有効性は金利差や市場環境によって流動的です。
金利差が縮小すれば、ヘッジコストは低下し、まさに今後は為替ヘッジを検討する機会が増える可能性があります。必要に応じて柔軟にヘッジ比率を調整できるよう備えておくとよいでしょう。
長期投資における実践的な対応策
・外貨建て資産を売却後にドル建てで再投資することで、一時的な為替変動の影響を回避することも可能です。
・為替が気になるなら、ヘッジ付きの投資信託を選ぶのも一つの手です。
・為替はあくまで「補助的リスク」と認識し、資産全体の設計で吸収可能な範囲に収めることが重要です。
・(運用ルールの例)目標ヘッジ比率を定め、四半期や年次で見直す/一定の乖離幅(±10%など)で自動調整する――といった「ルール化・習慣化」により、都度の相場観に頼らずに管理する。
為替リスクは投資における“避けられない波”ですが、正しく向き合えば「過剰に恐れる必要のない波」でもあります。
あなたの目的・期間・心理的耐性に応じて、納得できるスタンスを築くことが、長期的な資産形成のカギとなるのです。
塚本 憲弘
執行役員
マネックス証券株式会社
