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「別れてよかったです」…結婚欲ダダ下がりの〈Z世代〉が恋愛を捨て、たどり着いた“絶対に裏切られない相手”の存在

「別れてよかったです」…結婚欲ダダ下がりの〈Z世代〉が恋愛を捨て、たどり着いた“絶対に裏切られない相手”の存在

Z世代の「恋愛離れ」が指摘されて久しい今日。その背景は「個人の自由を優先するため」と考えられがちですが、実態はより複雑です。本稿では、牛窪恵氏の著書『Z世代の頭の中』(日本経済新聞出版)より、Z世代の恋愛・結婚観について、詳しく解説します。

Z世代はわがままだから、恋愛できない?

若者が恋愛・結婚しない理由に「わがままだから」を挙げる既婚者もいます。その際、揶揄されるのは「他人より自分のためにお金を使いたい」や「誰にも振り回されない、自由なひとり時間を満喫したい」といったZ世代の声です。

確かに、ネクストレベル※の調査でも、「恋愛が面倒」とするZ世代の男女が「面倒な理由」として掲げたトップ3は、「自由な時間が減る」と「ひとりが気楽」「お金がかかる」でした(「Z世代の恋愛・結婚観」)。また21年、先の国の第三者機関が若者(18〜34歳)に実施した大規模調査でも、「独身でいる理由」に「今は、趣味や娯楽を楽しみたいから」を挙げた人が2割を超えて(22.0%)いました(「第16回出生動向基本調査」)。

※スキマバイトなど短期人材サービスを提供する企業

ですが近年、ひとり時間を意識的に設けることが、ストレス解放に効果的だとされるのは周知の通り。また、Z世代は「ひとりっ子」の割合が増えた世代でもあるのです。

再び「出生動向基本調査」を見ると、その割合は80年代〜02年まで1割程度で推移していましたが、15年、21年はいずれも約2割(18.5%、19.7%)にまで達しました。ここでの「ひとりっ子」は、子どもを産み終えたとみられる夫婦(結婚から15〜19年が経過)の子の数から算出していますから、おもに現20代のZ世代(95〜04年生まれ)は、ひとりっ子割合が2割程度ではないか、と推察できます。

Z世代は、そもそもSNSや動画ネイティブであるうえ、スマホや「ニンテンドーDS」(任天堂/04年発売)などの携帯型ゲーム機で、幼少期から「ひとり遊び」に慣れてきた世代。そんな彼らからすれば、誰か特定の若者(おもに異性)と頻繁に会って行動を共にするだけでも、家庭内で慣れていないゆえに、一定のストレスがかかるはずです。

そのうえ近年は、趣味も多様化。21年に新語・流行語大賞(ユーキャン)にノミネートされた「推し活」に没頭するZ世代も増えています。実はこの推し活も、恋愛の阻害要因になっている可能性があるのです。どういうことか、まず現状を見てみましょう。

24年、あるリサーチ企業が10〜60代以上に行なった調査によれば、「いま推しがいる」との回答は若い年代ほど多く、10代で85%、20代でも76%にのぼりました(LINEヤフー「『推し』に関する調査」)。ちなみに、20代における「推し」のジャンル・トップ3は、「アイドル」「アニメ/マンガの登場人物・キャラクター」「歌手」で、この3項目は他世代と大きく変わりませんが、4位の「動画投稿者」は動画ネイティブのZ世代ならでは、とも言えるでしょう。

「エンタメ社会学者」の肩書を持ち、早稲田大学ビジネススクールやシンガポール南洋理工大学でも教鞭を執る中山淳雄氏によれば、「『推し』から得られる喜びは、以前隆盛を極めた『萌え』よりさらに大きいと考えられる」と言います。

優先順位は「恋より推し活」

いわく、「萌え」の時代(10年ごろまで)は、キャラクターやタレントなどの対象に「内的な(恋愛とも性愛ともつかない)」、1対1の感情を抱いたのに対し、推しの時代(11年以降〜)は、おもにファン同士、あるいはファンと推し自身が「(対象に)何かを与えたい」「共に何かをしていきたい」という感情を抱くようになったとのこと。

「仲間と共に」の概念は、キーワード「共創」とも一部、共通します。とくに「ハッシュタグ(#)」文化が「インスタ映え」などのブームによって定着した17年以降は、「#〇〇好きな人と繋がりたい」などと「〇〇」部分に推しを入力してつぶやけば、一瞬にして同じ趣味や嗜好を持つ人々と繋がれる時代になりました。

つまり「推し」には、特定の対象への愛情を皆でシェア(連帯)しながら、共に高みや深みを目指せる喜びがある。そのうえ、「対象が『仮想キャラ』など人間以外であれば、第三者と恋愛・結婚されてしまうなど、裏切られるリスクも低いのです」と中山氏。

ところが恋愛は、最終的に「1対1」になることを目指すので、仲間とも争う可能性がありますよね。もちろん裏切られるリスクもあるし、交際途中で「やめたい(別れたい)」と言っても、簡単に終止符を打てるとは限らない。それに比べれば、共創感情を伴う「推し」は、争いやストレスを避けたがるZ世代にとって、はるかに楽しい行為なのでしょう。

山梨県のIT企業に勤めるサラさん(24)は、韓国のボーイズグループ「RIIZE(ライズ)」推し。「私の脳内って、『エブリタイムライズ』なんで」。彼女はライズのCDやグッズ購入、韓国でのイベントやライブ参加のための往復交通費、宿泊費などに「1年間で70、80万円かそれ以上使ってるはず」とのこと。実は取材の2か月前まで、1年ほど交際した彼氏がいたそうです。でも当時から「週に1回会えれば十分」という程度で、優先順位は明らかに低かった。

「別れてよかったです。つねにライズのこと考えられるから」

彼女に似た傾向は、ほかのZ世代からもうかがえます。恋人がいないわけではない、恋愛にまったく興味がないのでもない、でも明らかに推しより「優先順位」が低い印象なのです。

22年、CCCMKホールディングスが、Z世代の社会人(19〜29歳)らに聞いた調査でも、社会人女性が「大事なもの」として挙げた4位は「趣味」、5位が「推し活」で、いずれも「恋人や恋愛」(6位)を上回りました。同男性では「恋人や恋愛」(30.1%)が推し活よりは上位ですが、「趣味」(54.8%)の回答は、恋愛より約25%も多く、「お金」に次ぐ2位でした(「若者の恋愛実態調査」)[図表]。

出所:2022年CCCMKホールディングス「若者の恋愛実態調査」 [図表]Z世代は恋より趣味や推し活が重要? 出所:2022年CCCMKホールディングス「若者の恋愛実態調査」

まさに、Z世代の「恋より趣味」「恋より推し活」を反映した結果と言えるでしょう。

牛窪 恵
世代・トレンド評論家

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