そんなことを口にしたのは、関西を拠点に活動するちょっと変わった先輩ライターだった。オカルトに強いわけでも、スピリチュアルに傾倒してるわけでもないのに、不思議と“ヤバい場所”の噂に詳しい人で、何かと気にかけてくれる存在でもある。
※本記事は、『大阪 不気味な宿』(青志社)の内容を適宜抜粋・編集したものです。

◆とある道の駅に、謎の集団が?
いわく、「ホテルとか旅館って、ある程度、人の手が入ってるやん。清掃とか、防犯とか。せやけど、車中泊はちがう。ドア一枚、ガラス一枚の隔たりしかない。そらもう異界と地続きみたいなもんやで」と。なるほどたしかに。ちょっとしたレジャー感覚で道の駅で1泊なんて言う人もいるけれど、それって本当に安全なのか? 誰にも守られない空間に一人で泊まるって、考えてみればちょっとしたホラーだ。そんな話を聞いてしまったら、実際に体験してみたくなるのが人情というもの──。
今回は、大阪南部、某市の山の手にあるとある道の駅で、真夏の車中泊を決行することにした。しかも、その場所には「夜な夜な活動する謎の集団がいるらしい」と、先輩ライターから耳打ちされている。もちろん、そんな話を真に受けてはいない。いないけど、ちょっとだけ期待してる自分もいる。
◆有名な「幽霊トイレ」に立ち寄ってみる
このエリアは、海側が商店街を中心に栄えていて、どこか昭和の匂いを残す風景が広がっている。真夏の昼下がり、立ち寄った商店街では、原付バイクに三人乗りして爆走する男子学生(多分高校生)がいて、それを見ても誰一人驚かない。ゆるいというか、懐が深いというか。大阪らしさを感じさせる空気がそこにはあった。けれど、そこから車で30分ほど山を登っていくと、がらりと雰囲気が変わる。急に民家が減り、ぽつんぽつんと企業の物流倉庫や工場が立ち並び、その合間に現れるのが目的地の道の駅だ。すぐ近くには交通量の多い幹線道路も走っているが、夜になると車もまばらになる。
私が選んだのは、その道の駅にある駐車場のひとつ。幹線道路に面しており、いざとなればすぐ逃げ出せそうな場所を確保した。まだ太陽が高いうちに場所取りをしておくあたり、自分でも用意周到すぎるとは思う。
でも、ちょっとでも「何かあったらどうしよう」と思ってる自分がいるのは事実だ。道の駅で待機する前に、もうひとつ気になる場所に寄っておきたかった。それが、近くの緑地公園にある、通称「幽霊トイレ」。地元の中高生のあいだでは有名な肝試しスポットで、かつては「絶対に何かに出会える」とまで言われていたとか。心霊写真が撮れた、トイレの壁に人影が浮かんだ、真夜中に子どもの声が聞こえたなど、噂は尽きない。
実際に現地に行ってみると、トイレはしっかり封鎖されていた。入り口は板で打ち付けられており、中には入れない。外観は意外にもカラフルで、女性用・男性用の建屋に分かれているのだが、そのポップさが逆に怖い。ライトをつけたスマホをかざし、板の隙間から動画を撮ってみる。
なにかが映ったらどうしよう……と、内心ビクビクしながら再生すると、そこに写っていたのは、真っ黒なカビとヒビ割れた壁だけ。ほっとしたのも束の間、なぜか動画が二本、保存されていることに気づいた。
絶対に録画ボタンを押したのは一度きり。それなのに、ほぼ同じタイミングで始まる、真っ暗な動画が二本……。スマホの誤作動か、それとも、トイレの中からオバケが押したのか? そう思ってしまうほどホラーな場所であることは確かだった。

