◆スポンサーの多さは「びっくりするほど」

「某有名アウトドアメーカーさんは、テントから衣類、食器まで合わせて100万円以上のものを提供してもらった。こんな田舎の若者のわけのわからない挑戦を応援してくれる企業なんてないだろうと、半分あきらめながら企画書を持って回ったんだけど、びっくりするほど多くの企業さんが協賛してくれた。お店に来るお客さんのなかにも、多額の協賛金を提供してくれて人もいた。本当にありがたいよね」
その恩返しではないが、経験からな学んだ知識やノウハウを若い人たちに惜しみなく伝えていきたいというのが、今の齊藤さんの願いだ。だから、テントを訪ねる人を無下に断ることもない。
「お金の相談は無理だけど(笑)、知ってることやわかることならいつでも誰でも相談に乗るよ。60歳を過ぎてさすがに日本一周はきつくなったけど、代わりに始めたこのテント暮らしは、身体がゆるす限り、続けたいね。もっとも、テントのサウナは血圧の関係でドクターストップがかかっちゃったりとかあるけどさ(笑)」
◆人生もチェーンソーも大事なのは休息
テントを訪れるのは人だけではない。市街地に近いエリアということでクマとの遭遇は今のところないが、キツネやタヌキ、フクロウなどが齊藤さんのテントの周りにちょくちょくやって来る。満天の星空の下、自然や動物たちに囲まれて手作りのテントで過ごす――そんなひとときも、もともとアウトドア志向が強く、行動力のある齊藤さんだから、という側面があるのかもしれない。ただ、方法や規模は違っても、自分にとっての至高の時間を持てるか否かで、人生の味わいは大きく変わってくるのではないか。
齊藤さんは語る。
「いつか、チェーンソーの使い方を教えてくれた人がいっていた。『素人は何時間も続けてチェーンソーを回そうとする。でもそれだと機械も人間も疲れてしまう。事故は疲れたときに起きやすい。10分回したら少し休む。その繰り返しが一番効率的なんだ』と。人生も同じじゃないかな。少なくとも俺は、このテントで過ごすことで生きることのモチベーションが上がっているよ」
=====
ちょうど相馬地区にテントが出現したころに東京から移住した筆者も、振り返れば走り続けて痛い目にままあった。遭うことがぼちぼち休み休みの人生をめざすべきかもしれない。齊藤さんの話を聞いて、そんなふうに思った。
<取材・文/加賀新一郎>
【加賀新一郎】
1964年、東京都生まれ。フリーランスのライター&エディターとして総合月刊誌、経済誌、ボクシング雑誌、歴史雑誌などの分野で活動。さらに出版社勤務を経て、2022年に青森県弘前市の相馬地区(旧相馬村)に移住し、3年間、当地の地域おこし協力隊として勤務する。退任後も弘前市に居住し、取材・執筆活動を続けている。

