これまで報じられたところによると、サウナ室内には非常用ボタンが設置されていたものの、非常用ボタンは電源が入ってなかったことが判明。室内のドアノブも外れていて「閉じ込め」が起きていた状態だった点も指摘されている。
警視庁は現在、出火原因の特定を進めるとともに、施設の安全管理体制に問題がなかったかどうかを捜査しており、業務上過失致死の可能性も視野に入れているとされる。ただし、どの設備がどの時点で機能していたのか、管理体制に具体的な落ち度があったのかなどの詳細はまだ明らかになっていない。
では、こうした事故が起きた場合、サウナを運営する店や経営側の法的責任は、どこまで問われるのだろうか。アディーレ弁護士事務所の南澤毅吾弁護士に、経営・運営側の法的責任について解説してもらった。

◆経営・運営側が負う「安全配慮義務」の重さ
「一般的に、施設の経営者・運営者は、利用者に対して『安全配慮義務』を負います。安全配慮義務とは、利用者の生命・身体等を危険から保護するように配慮すべき義務のことです」どの範囲まで配慮すべきであるのかという点は、「どれくらいの危険が予測されるのか」「何をすれば危険を防げるのか」といった点で個別に判断される。施設が危険なものであるほど、予想される危険は大きいため、これを回避するために行うべき設備の点検・管理義務の水準も高くなる。
「たとえばテーマパークでは、人の生死に関わる事故が予測されるため、マニュアルに従った顧客への注意説明や定期的な点検が徹底されています」
個室サウナの場合はどうか。南澤弁護士によれば、高温環境であり体調への悪影響や発火リスクが存在することに加え、「体調急変時に外部から気づかれにくい」という構造的リスクもあるため、施設としての危険性は高いという。
「一般的なリスク・注意事項を利用者に告知するのはもちろんですが、それだけでは足りず、万が一を想定した対策は必須でしょう。今回のような『閉じ込め』が起きないような設備設計や点検を行い、万が一の事態にはスムーズに救助ができるような体制を整えることまで含めて、点検・管理義務を負うのは当然です」
密閉された高温の室内で、非常用設備という「最後の手段」すら機能しなかったとすれば、そのとき被害者が感じたであろう無力感と、遺族の無念は想像に難くない。
◆非常用設備は「設置」より「運用」が重要
非常用ボタンや警報設備は“適切に運用されている”ことが重要だが「作動しなかったのであれば、まったく意味がありません」と南澤弁護士は語気を強める。今回のケースに類似した事例として、南澤弁護士は2001年に歌舞伎町で発生したビル火災を挙げる。この事件は44名が死亡する痛ましい結果となったが、被害が拡大した要因として、避難階段に荷物が置かれていた、火災報知器のベルが鳴らないよう設定されていた等の不備が重大視され、オーナーやテナント店長ら5名に対して、業務上過失致死罪が確定した。
「この件に限らず、非常用設備や点検が形骸化していることで被害拡大を招くケースも多く、裁判所は非常用設備の不備は厳しく判断する傾向があります。非常用設備自体の故障であれば弁解の余地もありますが、本件では『非常ボタンを一度も電源を入れたことがなかった』という証言も出ています。これが事実だとすれば、非常用設備を疎かにしていたサウナ店側の責任は非常に重いと判断せざるを得ないでしょう」

