メーカーに勤務する平井夏美さん(仮名・30歳)は、移動中に他人から受けた仕打ちによって、ストレスが極限の状態に達したことがあるという。

◆クチャラーが発する咀嚼音で眠れず
「クレーム対応のために、数日間にわたって地方の取引先を何社も回るために出張をしたことがあったんです。その2日目のことですが、初日の訪問先で心無い言葉を浴び、前日の夜はほとんど眠れませんでした。新幹線に乗り込む時には、心身ともに疲れていたので、席に着いたら身体を休ませようと思っていました」地方から地方への新幹線移動。平井さんは指定席の車両で窓側のシートに腰を下ろした。車内はさほど混んでおらず、静かだったのですぐにウトウトしはじめた。
「でも、すぐに目が覚めてしまったんです。音のせいでした。隣の席に初老の男性がやってきたんですが、席に着くなりお弁当を食べ始めたんですが、やたらと『くっちゃ、くっちゃ』と音を立てて食べるので、その音が気になってしまい眠れなかったんです」
老人が食べ終えるまでの間、平井さんは耳障りな音を聞き続けるしかなかった。
「最初のうちは仕方ないと思っていましたが、どうしても咀嚼音が気になってしまい、目を閉じていても休まりませんでした。ようやく老人の食事が終わり、静かになったので、もう一度、眠りに落ちようとしていた時でした。『ドスン』という強い衝撃を背もたれに受けたんです」
◆今度は後ろの席からの迷惑行為が…
それは、後ろの列の座席から蹴られたような衝撃だった。「嫌な気分になったんですが、後ろの乗客の足がうっかりシートに当たってしまっただけだろうと思い、もう一度眠ろうとしたんです。でも、『ドスン、ドスン』とさらに2回強い振動が席に伝わって来て、うっかりではないことに気がつきました」
ただでさえ気が重い出張のストレスもあり、平井さんは精神的に限界に近い状態だった。
「普段だったら反撃なんてしないんですが、その時は後先考えずに『蹴るな』と意思表示するために、勢いをつけて背もたれに自分の背中を叩きつけていました」
すると、シートへの衝撃はぴたりと止んだ。平井さんはようやく平穏が訪れたと安堵し、眠りに落ちようとした。
「ですが、ウトウト仕掛けた時にまた目が覚めてしまったんです。原因は鼻を刺すような悪臭でした。外に畑でもあって、堆肥の匂いが入ってきたのかと思いました。でも、嫌な酸っぱい感じのニオイで、目を開けて辺りを見回して、悪臭の元凶に気づいたんです。私が座る窓側の席と、新幹線の窓の間のわずかなスペースに、後ろの座席から伸びた足がにょきっと突き出ていました」

