◆まさかの理不尽な逆ギレ

しかし、その返答は思いがけないものでした。
「落としたのは店員の方でしょ?うちの子のせいにしないで」と、その母親は逆に声を荒げてきたといいます。
「一瞬、え?って固まっちゃいました。まるで責任転嫁されたような感じで……」
騒ぎを察知した店側のスタッフが間に入り、母子に声をかけたところ、その女性は足早に子どもを連れて店を後にしました。スタッフたちは、再度望月さんに謝罪し、クリーニング代の申し出や、お詫びの品も提案してきたとのことです。
「スタッフの方たちは本当に丁寧で、誠意を見せてくださって。だからこそ、あの母親の態度だけが、今でも引っかかっています」
◆苦い記憶となった結婚記念日
本来なら、思い出に残る楽しい記念日になるはずだったこの日。しかし実際には、望月さんご夫妻にとっては、少し苦い記憶となってしまいました。「せっかくの料理も、正直あまり味を覚えていないんです。なんだか気持ちが落ち着かなくて」
それでも、取材の最後に望月さんはこう語ってくれました。
「もちろん、子どもが元気なのはいいことだと思います。でも、それを見守る大人の姿勢が問われるんだなと感じました。あの日のことで、子どもが悪いというよりも、親の態度が残念だったんです。私たちも、もし親になることがあったら、周囲への配慮を忘れないようにしたいねって、夫と話しました」
一見、些細なトラブルのようにも見えるこの出来事。しかし、外食の場は多くの人が共有する空間だからこそ、そこに必要なのは「思いやり」なのかもしれません。望月さんの言葉には、そんな静かな教訓が込められているように感じられました。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

