平均寿命が80歳を超え、100歳以上の長寿者も珍しくない現代日本。しかし、生物学者・池田清彦氏によれば、人間が生物として本来持つ寿命(自然寿命)は、わずか38年しかないという。
では、なぜ本来は40歳前後で尽きるはずの命を、私たちはこれほどまでに延ばすことができているのか。そもそも、種の寿命はどのような仕組みで決まっているのか。そして、人類の「最終到達点」は何歳なのか。
池田氏に、生物学の視点から寿命の真実について教えてもらった。

◆人間の「本来の」寿命は38歳

実は38歳です。これを読んでいる人の中には、すでにこの年齢を過ぎている方もいるのではないでしょうか?
自然寿命の根拠は次のようなものです。遺伝子の上流には「プロモーター」と呼ばれる、遺伝子の発現をコントロールしている部位があるのですが、ゲノム(非コード部分も含めた遺伝情報の総体)がわかっている252ほどの脊椎動物に共有されている42個の遺伝子のプロモーター内のDNAメチル化のしやすさ度合いが、種の自然寿命と相関していることがわかったのです。
DNAメチル化というのは、DNAの特定の部位に「メチル基」と呼ばれる小さな化学物質が付加される現象のことです。通常は遺伝子にメチル化が生じると、遺伝子は機能しなくなります。
プロモーターがメチル化すれば、遺伝子の発現をコントロールする機能に不具合が起きるようになり、老化の原因の一つになります。
◆実年齢とイコールではない“生物学的年齢”もメチル化で推定できる!
メチル化は、DNAの上流からCpG(シトシン─リン酸─グアシン)と並んでいるCにメチル基が付着することで起きますが、CpGの密度が高いところではメチル化が阻害されることがわかっています。そこでプロモーターのCpGの密度を調べると、密度が高い動物ほど自然寿命が長かったのです。
そうして推定された自然寿命はホッキョククジラで268年、ピンタゾウガメは120年、アフリカゾウは66年でした。
絶滅したケナガマンモスは60年、ネアンデルタール人やデニソワ人は37~38年で、ヒトも38年だったのです。ゴリラやチンパンジーもヒトとほぼ同じです。
ちなみに、自然寿命とは関係なく、ゲノム全体でDNAメチル化がどれだけ進んでいるかを測れば、その人の老化の度合い、すなわち生物学的年齢を推定することができます。
また、逆にメチル基がとれる「脱メチル化」が起こると細胞は若返ることが知られています。

