◆細胞分裂の回数にも実は限界がある

「DNAは細胞核と呼ばれる重要な部分に収まっている」という説明をしましたが、もう少し細かく言うと、ヒストンというタンパク質に巻きつき、さらに折りたたまれてパッケージ化された状態で収まっています。
そのパッケージ化された構造が染色体です。
染色体の末端にはテロメアという構造があり、これは端を守る“キャップ”のような役割をしています。テロメアには生命維持に直接関わる重要な遺伝子は載っていないため、多少切れても致命的な問題は起きません。
ところが、細胞分裂を重ねるごとにテロメアは少しずつ短くなり、ヒトではおよそ50回ほど分裂するとテロメアがほぼなくなってしまいます。
これが、ヘイフリック限界と呼ばれる現象です。
◆短くなっても伸び続ける、がん細胞のテロメア
時にはテロメアを伸ばす働きを持つ酵素「テロメラーゼ」が活性化して、短くなったテロメアが再び伸びることもありますが、全体としてテロメアは加齢とともに短くなっていきます。実はがん細胞は例外で、ここではテロメラーゼが常に活性化されているため、テロメアが短くなってもすぐに伸長され、いつまでも分裂を止めることなく増え続けます。
だから、がん細胞自体に寿命はなく、不死なのです。
植物の場合もテロメラーゼが働くのでテロメアの長さが保たれます。だから一般的に植物は寿命が長く、アメリカヤマナラシという広葉樹の一種などは1万年以上生き続けることができます。
けれども動物の通常の細胞では、テロメアが限界まで短くなると細胞は正常に働けなくなります。細胞分裂も止まり、新しい細胞をつくって古い細胞と入れ替えることもできないので、そのまま機能を失っていきます。
その結果、組織や臓器全体の働きが少しずつ低下していき、やがて命も果てるというわけですね。
ヘイフリック限界に達するまでの時間は組織によって異なり、組織ごとに細胞の寿命は異なりますが、大半の細胞がヘイフリック限界に達すれば個体は老化し、死に至ります。

