◆うまくいけば迎えられそうな「最終到達地点」は何歳か?

つまり、自然寿命からすると40歳前後で尽きるはずの命を、すでに2倍以上延ばしているのです。
医療や衛生環境の改善、栄養状態の向上などによって、怪我や病気で命を落とす確率が大幅に下がっただけでなく、老化するスピードが遅くなっていることもその背景にあるのは間違いないでしょう。
しかし、だからといってこの先さらに寿命を延ばせるかと言えば、話はそう簡単ではありません。平均寿命はまだ少しずつ延びてはいますが、人類の「最大寿命」はほとんど変わっていないのです。
世界の歴代長寿記録は、フランス人女性ジャンヌ・カルマンさんの122歳164日ですが、カルマンさんは1997年に亡くなっているので、彼女の記録は実に28年間も破られていないことになります。ちなみに第2位は2022年に亡くなられた日本人女性の田中力子(かねこ)さんの119歳107日です。
現在公式に確認されている存命中の世界最高齢者はイギリス人女性のエセル・ケータハムさんの116歳(2025年8月時点)ですが、カルマンさんの記録に並ぶにはあと6年もかかることになります。
近年の医療の劇的な進歩の中で30年近く最高齢が更新されていないという事実は、カルマンさんの122歳というのがいかに奇跡的なレベルであるのかをよく物語っているのではないでしょうか。
◆100歳超は直近5年で2万人も増えたが…
なお、男性の場合、最長寿記録は2013年に亡くなった日本人の木村次郎右衛門さんの116歳54日で、こちらも12年間破られていません。存命中の男性としては、記録が正しければ112歳を超えているブラジル人のジョアン・マリーニョ・ネットさんが最長寿ということになりますが、木村さんの記録に並ぶのにはあと4年、カルマンさんの記録に並ぶとなるとあと10年もかかります。
一方で、100歳以上の「センテナリアン」は確かに珍しくはなく、2025年9月1日時点の住民基本台帳によれば、全国で9万9763人に上ります。
2020年9月1日時点では、8万450人だったので、2万人近く増えている計算です。
とはいえ、「スーパーセンテナリアン」(110歳以上)となると一気にその数が少なくなります。2020年の国勢調査時点で日本のスーパーセンテナリアンは141人しかいません。
さらに、115歳以上を生きた人という点では、他界した人も含め日本では非常に少数で、これを超えた人数はごくわずかです。
つまり、どれほどの医療の進歩があったとしても、また、どれほど老化を遅らせることができたとしても、100歳を超えるあたりがかなり恵まれた「最終到達地点」と考えるのが、現実的な見方だと言えるでしょう。
〈文/池田清彦〉
【池田清彦】
1947年、東京都生まれ。生物学者。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。生物学分野のほか、科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書がある。フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』などテレビ、新聞、雑誌などでも活躍中。著書に『世間のカラクリ』(新潮文庫)、『自粛バカ リスクゼロ症候群に罹った日本人への処方箋』(宝島社新書)、『したたかでいい加減な生き物たち』(さくら舎)、『騙されない老後 権力に迎合しない不良老人のすすめ』(扶桑社)など多数。Twitter:@IkedaKiyohiko

