
自宅は持ち家にするべきか、賃貸にするべきか…。この論争はたびたび繰り返されてきました。もちろん、個人の価値観による部分は大きいですが、一方で、社会の状況は変化しています。それらを加味したうえでチェックしておきたいこともあります。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
借家と持ち家の論争、損得の観点が多いが…
住宅の専門家の間では、以前から持ち家に住むべきか借家に住むべきか、という議論があります。ということは、どちらかが決定的に有利だということではない、ということでしょう。
彼らの議論は主に「どちらが得か」という論点のようですから、本稿では視点を変えて、筆者の老後資金に対する基本姿勢に照らして、「豊かな老後を追求する」よりも「惨めな老後を避ける」という観点で論じてみましょう。
老後資金の最大のリスクは長生きとインフレ…もし借家暮らしなら?
老後資金の最大のリスクは「長生きしている間にインフレが来て、老後の蓄えが底を突いてしまう」ことです。長生きはいいことなのですが、老後資金を考えるうえではリスクなのです。
老後に借家暮らしをしている人は、インフレが来ると、生活費も家賃も膨れ上がり、それを長生きしている間、ずっと払い続ける必要が出てくるわけです。それは非常に辛いはずです。
自宅さえ持っていれば、老後の生活資金はなんとかなる人が多いでしょう。サラリーマン(男女を問わず、公務員等を含む。以下同様)は退職金が出ますし、公的年金も比較的充実しているので、老後資金は何とかなる場合が多いでしょう。自営業者は定年がないので、元気な間は現役として稼ぎ続けることができるでしょう。
しかし、サラリーマンにせよ自営業者にせよ、生活費に加えて家賃まで払い続けるのは決して容易なことではないはずです。「現役時代にしっかり貯蓄するから、老後の生活費と家賃には困らないはずだ!」などと自信を持っていえる意志の強い人は、決して多くないのでは…と筆者は思っていますが。
資金面だけではありません。ひとり暮らしの高齢者に家を貸したがらない大家さんも多いと聞きます。なんらかの事情で今の家を出ることになったときに、次に住む家が見つからなければ大変です。
自宅に住んでいれば、住む所がなくなることはなさそうですし、維持費はかかるでしょうが、家賃よりははるかに安いでしょう。リスクとしては、地震で自宅が倒壊し、地震保険だけでは自宅の再建ができない可能性が考えられます。借家であれば、別の家を借りればよいだけですから。
しかし、これに関しても、大地震の場合は事情が異なるかもしれません。大地震で多くの家が倒壊したら、借家希望者が殺到して家を借りることができないかもしれませんが、自宅が戸建てであれば、少なくとも土地は残るので、戦後の焼け跡に建てたような急ごしらえの家であれば、なんとか建つかもしれませんね。
