自宅取得時の「強制貯蓄」にもメリット
老後に借家に住むとなると、現役時代に老後の生活資金と家賃を貯めておく必要があります。同世代が住宅ローンの返済に苦しんでいることを考えると、その分を貯めておけばいいのですが、問題は意志の強さです。多額の老後資金が貯まっているときに、贅沢をしたいという誘惑に打ち勝つのは容易ではありません。自動車購入や海外旅行などを我慢して老後の蓄えを守り抜くのは、ダイエットや禁煙に何度も失敗した人には非常に厳しい試練だといえそうです。
その点、若いときに住宅を購入した人は、多少意志が弱くても大丈夫です。銀行が定期的に返済資金を引き落としてくれるので、贅沢ができないからです。そして、定年を迎える頃にはローンの返済が終わり、老後に住む家が確保できている、と期待できるはずです。借り手の意志の弱さを補ってくれる銀行の親心に感謝です(笑)。
財産全体に占める「不動産比率」に注意
筆者は自宅購入に前向きですが、不動産投資としての貸し家の保有には消極的な立場です。自宅と貸し家ではリスクが異なるからです。
今後の不動産価格や家賃等は、インフレで上がっていくかもしれませんが、反対に人口減少で下がっていくかもしれません。自宅に住んでいるだけなら、不動産価格が上がっても下がっても、どうせ住んでいるのですから影響は限定的ですが、貸し家まで所有していると影響大です。冒頭で記したように、筆者は「家賃が上がってリッチな老後を過ごせる可能性」を追求するより「家賃が下落して惨めな老後を過ごす可能性」を避けることを優先したいです。
そもそも、自宅に加えて貸し家も持つと、財産全体に占める不動産の比率が高くなりすぎるでしょう。分散投資の観点から資産はさまざまなものに分散しておく、という原則から考えて危険なことです。
それでも、どうしても貸し家を持ちたいというのであれば、貸し家の代わりにREITという金融商品を持つ選択肢も検討してみましょう。貸し家よりはマシだと思います。REITについては、別の機会に詳述します。
本稿は以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
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塚崎 公義
経済評論家
