工夫とアイデアに溢れた台所を訪ねた&Premium145号(2026年1月号)「料理好きの台所」より、菓子研究家・長田佳子さんの台所を紹介します。





自然の景色や時間の経過を感じる台所空間。
「毎朝の楽しみは、台所にある窓から見える景色です」。そう言って、長田佳子さんは、移りゆく景色を静かに眺めていた。雲が山の斜面を覆い、淡くぼけた緑のグラデーションが、目に優しく映る。台所のレイアウトは、四季折々の景色を感じながら料理ができるように考えたという。
「ふと視線を窓の外に向けたときに美しい瞬間に出合えることが嬉しくて。最初は窓辺に水場を配置する案も考えましたが、夏は暑くて眩しすぎる気がしたんです。それで、この場所をカウンタースペースにしました。調理に必要な食材を置くこともできますし、ここで食事をしたりすることもありますね」
東京から山梨に移住し、自然を感じる時間が増えたことは、台所のしつらえの色を選ぶうえでも影響があったそう。たとえば、作業台に選んだモスグリーンの大理石天板や温かみのあるトーンの白いタイル、収納に用いたヴィンテージ感のあるこっくりとした色の木材など。
「内装デザインは仕事仲間でもある建築事務所にお願いしました。彼らはヨーロッパのアンティークのパーツなど、素材にこだわっていて。いろいろと提案をいただいたなかで、自分が心地よさや美しさを感じる長く愛せるパーツを選び抜きました。台所の景観に自分なりの感性を投影できたように思います」
天板の大理石の色は、山梨の自然をイメージできるようにした。
「石のパーツの見本は小さなサイズでしか見られなかったのでちょっとしたチャレンジでしたが、モスグリーンがとてもしっくりきています。そして、壁にはモロッコタイルを。釉薬をかけて手作りで生み出された歪みのある質感や色のムラが美しくて。朝日が当たったときは、反射板のようになって、淡い赤に染まります。繰り返す日常の中で、そうした情景がじんわりと心に残り続けます」
光を受け、時間によって見え方が変わる台所の余白空間は、ゆったりとした時間の流れをつくり出す力がある。燭台、オブジェ、リースなど、眺めていて豊かな気持ちになるものに囲まれて料理をするひとときは、長田さんの心の栄養になっている。





長田佳子菓子研究家
〈foodremedies〉という屋号で活動。体に負担が少ないお菓子を研究している。家に眠っている食材を使って作るお菓子の本を来春出版予定。
photo : Kyouhei Yamamoto edit & text : Seika Yajima illustration : Shinji Abe
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COOKING LOVERS’ KITCHENS / 料理好きの台所。&Premium No. 145
かつて住まいの裏方であった台所は、いまや家づくりの軸となる、暮らしの中心にある存在になりつつあります。いい台所は、使い勝手のいい台所。使う人が自分自身の勝手にあわせて工夫をするのです。そして自分の勝手というのは、繰り返し料理をする中ではじめて見えてくるものですから、心地のよい台所の持ち主は、すなわち 料理好きであるといえるのではないでしょうか。今号の特集は「料理好きの台所」。手をかけ、使い込んだ台所からは、その人が楽しげに腕を振るう姿や、豊かな食卓や暮らしそのものが透けて見えるようです。すべてのものを取り出しやすくしている人、スッキリ何もない空間で料理に励む人、菜箸や布巾ひとつまでこだわって選ぶ人。工夫とアイデアに溢れ、すみずみにまで目の行き届いた、16組の料理好きのみなさんの台所を拝見します。
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