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国際霊柩送還士とは?海外で亡くなった人は「魂と一緒に帰ってくる」

国際霊柩送還士とは?海外で亡くなった人は「魂と一緒に帰ってくる」

ご遺体をできるだけ生前に近い形にしてご遺族にお渡しする

現実的な話として、海外で亡くなったご遺体は、貨物として空輸されるので、気圧の関係で体液・血液がもれ出てしまっています。事故や災害に遭われた方なら、欠損している部分もある。国によっては防腐の技術が拙かったり、保存状態が劣悪だったりすることもあります。

私たちは、独自に開発した特別な霊柩搬送車でご遺体をお迎えし、国家資格を持つ専門の技術者たちがカーゴスペースで、そんなご遺体の“ご機嫌の悪いところ”をすべてきれいにしてあげて、待っている家族のもとに返せるようにします。

海外で自死された娘さんを担当したことがありました。亡くなられてから日本に帰れるまで1か月半かかってしまったので、私が見たときには、目が陥没してまつ毛も抜けてしまっていました。地方の町でしたから、防腐(エンバーミング)の技術が行き届いていなかったのかもしれません。

なので、パスポートの写真を頼りに、陥没していた目には専用の詰め物をして膨らませ、つけまつげをつけて、服装も整えてあげました。

そうしたら後日、ご両親から「おかげさまで娘のお別れの会をすることができました。娘のお友達がたくさん来てくれて代わる代わる顔を見てお別れを言ってくれました。本当にありがとうございました」という連絡が届いたのです。

お別れの場をつくることは、本当に大事なこと。そのとき、生前に近い姿で対面ができると、身内もまわりの人たちも――特に日本人は気持ちの区切りをつけやすいのだと思います。

亡くなった方にも、おかえりの声は必ず届く

私は、ご遺体が飛行機で日本に帰ってきたときには、笑顔で「おかえり」と出迎えるようにしています。無事に帰ってきてよかったね、と。ご遺族がいらっしゃるときには、ご遺体に声を掛けてあげてください、とお願いします。体と一緒に魂も帰ってきていると信じているんですよね。だから、声を掛ければきっと亡くなられた人に届くと思う。

ご葬儀までに話したいことは全部話した方がいい、とも言います。「あんた、いつも私に細かいダメ出しばっかりしてたね」みたいな結婚生活での愚痴でもいいし、「あのときの家族旅行、楽しかったね」って思い出話でもいい。

何年も家族として一緒に過ごしてきた歴史があるのだから、どんなことでも、悔いのないように話し尽くすといい。お通夜の儀式というのは、そうやって最後に一晩を一緒に過ごす時間が必要だから、今も変わらず残っているのでしょうね。そしてやはり、生前に近い姿のご遺体だからこそ別れを告げやすいのかもしれません。

今、家族葬やシンプルなご葬儀がはやっていますが、私には、その人が生きてきた歴史にまわりが勝手にふたをしてしまっているようにも感じます。

家族はもちろん、亡くなった人とのつながりを持っていた人たちが、その人の死を受け入れるために、弔う、という儀式は必要なんじゃないか、と。多くのご遺体、そしてそのご遺族の方に向き合ってきていっそう強くそう思うのです。

ご遺体をできるだけ生前に近い形にしてご遺族にお渡しする、ということは、実は世界の中では独特の文化なのかもしれません。次回は、日本人の弔いの文化と私自身のお話をしましょう。

今の私にとって、この仕事は天から与えられた使命のようなものですが、40代に入る頃までは、普通の専業主婦で、こんなふうに世界中を飛び回ることになるとは思ってもいなかったんです。

取材・文=岡島文乃(ハルメク編集部)

※この記事は、雑誌「ハルメク」2025年3月号を再編集しています。

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配信元: HALMEK up

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