◆なぜぬいぐるみを手放すことになるのか

「家じまいや引っ越し、終活のための断捨離など人生の転機で、人形やぬいぐるみを手放される方も多くいらっしゃいます。他にも、新しいパートナーが出来て、元恋人との思い出の品を手放さなくてはならなくなった方などですね」(純空壮宏住職)
多くの人は、仕方なく手放すしかない事情があるようだが、軽薄さを感じる例も増えてきている。
「昨今はクレーンゲームが流行していますよね。ああいったゲームは景品を獲るまでが楽しみで、獲った後はどうでもよくなってしまうのかもしれません。簡単に手放している印象の方もいらっしゃいます」(純空壮宏住職)
さらに、ぬい活・クレーンゲーム以外のブームが背景にあることも。
「最近の、心霊ブームの影響です。テレビ番組やYouTubeなどで『災いを起こす人形』『動く人形』などの企画があり、それを見た方からの依頼も増加しています。ごく少ないですが、『うちの子(ぬいぐるみ)も動いたので、供養してほしい』と、顔を青くして来られる方もいらっしゃいますね」(純空壮宏住職)
◆お寺に無断で放置されるケースも散見
ブームとなって関わる人が増えると、その中にはマナーやルールを逸脱する人も比例して増加する。純空住職は、次のような困りごとがあるという。「うちでは、郵送や予約をいただいた上でのお持込で供養いたします(供養料は500円〜1,000円程度)。ですが、何の相談もなく、境内にぬいぐるみなどを勝手に置いていかれることがあり、大変困っています。無断で放置するのだけはやめていただきたいですね」(純空壮宏住職)
こうした迷惑な事情もある中、前出の秋津さんは次のような選択肢もあるのではないかと語る。
「親戚や友人の子どもなどに受け継いでもらうパターンです。もしくは、必要とする施設に寄付することも考えられますね。他にも、フリマアプリで引取先を探すこともあるかもしれません。もちろん、自分のペットを売りに出すと考える人がいないように、ぬいぐるみに愛着と命を感じていれば、売るという選択肢は出ないと思います」(秋津さん)
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人型・動物型という形状や、共に過ごした時間によってぬいぐるみに対して“命めいたもの”を感じるのは自然なことだ。
そこで大事なことは、「どう迎え、どう手放すか」というモノとの付き合い方そのものではないだろうか。消費社会の時代だからこそ、ぬいぐるみとの関係も丁寧に考えていきたい。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

