そんな常識に対し、生物学者・池田清彦氏は『「老いる」とは、「今」を楽しむ特権を得ることだ』と異を唱える。
どうすれば幸せに老いていくことができるのか? その本質を教えてもらった。

◆「老いる」とは「今」を楽しむ特権を得ること

これが、幸せに老いるための基本姿勢だと私は思っています。
そして、私が考えるもう一つの大事な心がけは、「先のことはあまり考えず、今を楽しんで生きる」ということです。
考えてもみてください。ある程度の年齢になって、未来が楽しみだという人はあまりいないんじゃないでしょうか?
年を取ると「孫の成長だけが楽しみ」という言葉が口癖になる人が多いのも、自分自身の10年後、20年後が待ちきれない、という人なんていないからです。
肉体的な側面から言えば、今より老いていることは確実ですし、死んでいる可能性だってあるのですから、言ってみればお先は真っ暗なんですよ。
だから私は先のことはあまり考えません。死ぬのは別に怖くはないですが、楽しくもないことをわざわざ考える必要はないからです。
◆未来を憂うメリットがあるのは若者だけ
先のことを考えない、というのは、当然リスクもあります。たとえば若い人たちが、今が楽しければいいやと思って遊んでばかりいれば、進学や就職に支障が出るかもしれないし、その先の人生でも苦労することになるかもしれません。
だから、先が長い人ほど、未来のことを考える必要はあるし、時には「今」を犠牲にしなければならないこともあります。
もちろん、そんなことは気にせずに好きに生きたって別にいいのですが、そのぶんリスクを背負うことになるのは覚悟しなければならないでしょう。
けれども年を取ってからの未来のリスクなんてせいぜい死ぬことくらいしかありませんし、それはどうあがいたって絶対に避けられない、確実に訪れるリスクです。だからあれこれ心配したって仕方がありません。
つまり、未来を心配することにメリットがあるのは若い人だけで、嫌なことや意に沿わないことをやらざるを得なかったり、我慢したり、努力したりするのは、その先に長い未来があるからこそなのです。
逆に言えば、リスクを無視して「今を楽しく過ごす」ことができるのは、年を重ねたからこそ得られる特権でもあるんですよ。

