
令和5年度の文部科学省の調査によると、小中学校における不登校の児童生徒数は、過去最多の34万6482人を記録しました。増加する数字の裏には、単なる「怠け」や「甘え」では片付けられない、子どもたちの切実なSOSが隠されています。「あんなに良い子だったのに、なぜ?」「家でゲームばかりしているのは、ただのサボりでは?」親がそう思い込んでしまう行動の裏には、実は「過剰適応」による燃え尽きや、言葉にできない「不安」が潜んでいるかもしれません。本記事では齊藤万比古氏(児童精神科医)監修の書籍『不登校・登校しぶりの子が親に知ってほしいこと: 思春期の心のメカニズムと寄り添い方』(大和出版)より、不登校のタイプを4つに分類し、親が見落としがちな「登校しぶりの本心」を解説します。
登校しぶりの子のSOSと本心
思春期に入り、ちょっとした問題で不安になったとき、登校しぶりが起こりやすい。そのタイミングで、その子本来の顔があらわれる。
親が子の本心を捉え損ねると、そこから本格的な不登校に移行することも。
type A:過剰適応型…空気が読めるまじめながんばりや
不登校でもっとも多いタイプです。幼い頃からまわりの空気が読めるので自分の意見を言わず友だちに合わせたり、親の期待に応えようとがんばり過ぎたりして疲れ切ってしまいます。
対人関係に敏感で、ちょっとした失敗にも過剰に傷つき、不安になり自信を失い登校できなくなることがあります。頭痛や腹痛を訴えて受診してもわるいところは見つかりません。突然「うるさい」などと反抗的になって周囲を驚かせることもあります。
イラスト:田中麻里子
急なやる気喪失
表面上は何事もなかったように見えるが、突然「やる気が出ない」などと言い出す。まわりから見ると、だらけているように見える。無気力な発言が目立つ。
体調不良の訴えが続く
朝になると頭痛・腹痛を訴える。「行きたくない」とは言わないが、明らかにつらそうに見える。小児科に行っても「異常なし」と言われる。仮病と見られてしまうことも。
急に反抗的になる
「素直なよい子」が、急に「うざい!」「うるさい!」などと口答えや反発をするようになる。おさえ続けてきた感情が噴出。急に不機嫌さをぶつけてくる。
イラスト:田中麻里子
突然「消えちゃいたい」と口にする
友だちとのいざこざなどがきっかけとなり、自分を責める気持ちが高まり、存在自体を否定。努力が報われない感覚がある。
「学校で浮く、怖い」と 言い出す
「友だちが怖い」「学校で浮いちゃう」「LINEを返せない」など不安な気持ちが表出。人間関係に過敏になり、仲間はずれにされることを過剰なまでに怖がる。
「みんなが期待する姿に近づこうとがんばってきたけど、もう限界、もうがんばれない……」
type B:受動型…いやと言えないで尻込み
受動型も不登校に多いタイプです。自分の意見が言えないのでいやなことも断れず、友だちの言いなりになって後悔しがちです。
学校では活発な友だちの集団に圧倒されて萎縮し、なるべく目立たないように過ごしています。受動型の子は友だちが叱られるのを見ても不安になります。おとなしいので、親は「手のかからない子」と感じているかもしれません。心に積み重なった不安をうまく言語化できず、静かに不登校になっていきます。
イラスト:田中麻里子
会話を避ける
親から学校をのことを尋ねられると、顔を伏せ、なにも話せなくなる。涙をこぼし、しょんぼりする。
拒否できない
親からなにか言われても、はっきり拒絶することができない。黙り込んで、うつむき、体をこわばらせてしまう。
発表やグループ活動の日は欠席する
活動にはいつも消極的。みんなの後をついていくだけで参加したがらない。クラスでは影が薄い印象。発表やスピーチがある日は登校をしぶる。
イラスト:田中麻里子
目をつけられるのを恐れている
うまく自己主張ができず、クラス内のトラブルに巻き込まれていく。強い子に目をつけられいじめの対象になりやすい。できるだけ目立たないように振る舞っている。
叱責された場面を引きずる
自分ではないのに、クラスの誰かが叱られた場面を思い出し、学校が怖くなってしまう。教師や親の怒鳴り声や、その情景が鮮明に記憶にあり、思い出すと不安になる。
徐々に不登校になる
普段から「おとなしくて目立たない子」であることが多い。不登校の前からだんだん元気がなくなり、登校をしぶり始めるようになる。
「『どう?』って聞かれてもうまく言えない。学校は怖くて居場所がない感じ」
type C:受動攻撃型(静かな反抗タイプ)…動かず、変わらず反抗する
受動攻撃型の子は積極的に反抗はしませんが、頑固で言われた通りに行動しません。
「やりなさい」と言われれば「やる」と答えるものの、先延ばしにし成果を出しません。「学校に行きなさい」と言われても「うん」と答えるだけで行かない、学校に行っても教室に行かず図書室で過ごすといったことが見られます。支配的で干渉しすぎの親御さんに対し、あえて成果を出さず親を失望させイラつかせることで、親への怒りを表現します。
イラスト:田中麻里子
「やる」と言っては先延ばし
「わかった」「行くよ」と答えるが、実際は動きを遅らせ、実行しない。わざと緩慢な動きで時間をかけて、始業時刻に間に合わない。「いまやる」と言って寝てしまう。
登校するものの参加せず
家は出るが教室には入らない。保健室・図書室などで過ごす。校門まで来るが帰ってしまう。連絡帳や配布物が親に届かない。
イラスト:田中麻里子
不機嫌でバリアをはる
反論はしないが、わざとため息をついたり、硬い表情のまま無言になったり。三者面談の当日に「体調がわるい」といってドタキャンするなど。家庭内の会話が激減。
言われた通りやったように見せかける
「言われた通りにやった」と言うが、やった成果は得られない。宿題の未提出、授業や部活で必要な道具をくり返し忘れる。言われた通りにやっているように見えるが、実行しない。
「できない」ことを武器にする
わざとミスをし、周囲の期待値を下げる。忘れ物をして授業に参加しない。テストで白紙のまま提出する。周囲からは「やる気が見えない」と思われる。ADHDと似ているが、区別が必要。
「これ以上急かさないで。傷つくのがいや。だからがんばりたくない」
type D:衝動型…やりすぎて集団から孤立
思春期の子どもの課題は親離れです。そのため、同じ感性の仲間と行動しようとします。
ところが衝動型の子は、なんでもやりすぎる、おしゃべりで秘密を守れないといった場の空気を読まない言動が目立ち、集団から排除されがちです。「どうして受け入れてくれないの」と友だちに怒りを爆発させる子も。やがて友だちに背を向けて不登校になります。このタイプの子のなかには、発達障害や虐待経験のある子も含まれています。
イラスト:田中麻里子
仲間の信頼を失い、登校をしぶる
注目を得たい気持ちから、秘密にしていた話を暴露。たとえばグループLINEの内緒話を別グループで共有し、仲間にバレて無視され、暴言を投稿するなど。こうしたもめごとから登校をしぶる。「保健室でいい?」などと条件をつけて登校する。
怒りで場を壊し、離席や早退
小さなきっかけから一気に怒りを爆発させる。まわりにからかわれた怒りから廊下へ飛び出し、保健室やトイレにこもるなど。離席や早退が増えて、いやな授業時間だけ欠席が目立つ。
イラスト:田中麻里子
生活リズムが崩壊
強い刺激へ流れやすく、深夜までのゲームや動画視聴がやめられず、夜更かしや遅刻、宿題の未提出が慢性化。叱られると反発し、さらにそれを避けるようになる。生活リズムが崩れ、遅刻や午後からの登校などが常態化。未提出の宿題が山積みになり、成績が急降下する。
教師に反抗し逆恨み
わるふざけが加速。物を壊したり、授業を妨害したりする。教師から指導を受けると反発する。教師との面談を拒否。特定の授業などいやな場面だけ欠席するようになる
クラスで孤立し、イライラする
周囲に受け入れられなかった体験が積み重なり、「どうせ私なんて」とネガティブな思考におちいる。クラスで孤立し、家で不機嫌になり黙り込む。イライラが高まり「もう学校に行かない」と宣言する。
「仲間に入れてほしい。怒ってるんじゃない。強く見えても不安なだけ」
type E:混合型…がんばりor我慢しすぎて突然キレる
混合型はA〜Dのうちふたつ以上の型が混在するタイプです。とくに多いのが「衝動型+過剰適応型」「衝動型+受動型」。衝動型とほかの型の混合型です。背景に発達障害が存在していることが多く、学校教育だけでは対応できません。早めに医療との連携をはかり、専門医の指導を受けることが大切です。生活リズムや感覚過敏、実行機能(段取り)、対人関係の誤解などに対して適切な医療サポートが必要です。
■衝動型+過剰適応型
イラスト:田中麻里子
問題なく見えるのに感情を爆発
評価を求めて背のびするが、たとえば係やリーダーに選ばれ、完璧にやろうとしているときに注意を受けるなど、周囲からマイナスの指摘を受けると、一気に感情が爆発。その後自己嫌悪におちいり、似た状況を回避。行事やテスト直前直後の遅刻・早退が増える。
いい子でいようとしストレスからゲーム漬け
学校では勉強や人間関係の問題をおさえ込み、帰宅後にゲームやSNS漬け。朝起きられず、午前中は欠席してしまう。
終わりのないがんばりストレス
ほめられると、さらに周囲の期待値が上がる不安を解消するために、衝動買いやゲーム課金などに走る。生活リズムが崩れ不登校に。
■衝動型+受動型
イラスト:田中麻里子
我慢の限界で怒りが爆発
普段からいろいろなことを我慢し、いやなことを避けているが、限界が来たときに、唐突に学校を拒否し、家に留まる。
わるふざけに巻き込まれ、登校をしぶる
グループの強い子の命令を断れずに、わるふざけに巻き込まれたりして、恥をかかされたりする。いやだと言えず、苦手な子がいるときは学校に行けなくなる。
抱え込みすぎて逃げ出す
係や発表、締め切りなどを抱え込み、直前で放り出して逃げてしまう。当日に体調不良で欠席する、白紙で書類を提出するなど。
発達障害「グレーゾーン」の可能性も考えて
「怠け・反抗」ではなく“できない”可能性があることも考えてください。
とくに発達障害とは診断がされないグレーゾーンの子の場合、本人は必死でがんばって学校生活を送っています。思春期になると、より複雑な人間関係のなかでトラブルが起こることもあります。注意して見守る必要があります。
齊藤 万比古
恩賜財団母子愛育会
愛育研究所顧問
