1992年、ワンマン経営の崩壊で事実上の“倒産”を経験
1992年5月12日、SHOEIは東京地裁に会社更生法の適用を申請し、事実上倒産した。当時の新聞では、「岩手工場建設で借入金の金利負担が増加して資金繰りに行き詰まった」と報道されたが、資金繰りだけが原因ではない。オーナー社長のワンマン経営が原因で破綻したのだった。
SHOEIは80年代後半から90年代にかけてナンバー1ブランドにあぐらをかき、つくれば売れるとばかりに大量に生産して在庫の山を築いた。さらに超有名ライダーとの契約など、広告宣伝費の負担が膨大だった。
身の丈に合わない経営をしていたのだが、社員はオーナー社長に意見を言えず、不満のある優秀な社員は次々と退職していった。
更生法の適用後は三菱商事の支援で再建を進めた。三菱商事が新社長として送り込んだ山田勝は、商社マンではあるがトヨタ生産方式を信奉しており、トヨタ生産方式で経営改善に取り組んだ。
老朽化した東京工場の閉鎖、作業員の多能工化、材料在庫の整理などを進めたほか、人事制度の改定を行った結果、倒産から6年後の1998年3月には更生手続きを完了。当初は2003年9月に完了する計画だったので、5年半前倒ししたことになる。
2004年7月にはジャスダックへ株式公開し、2022年4月には東京証券取引所1部からプライム市場に移行して現在に至る。長年にわたって経営効率化に取り組んだ結果、現在では有利子負債ゼロ、自己資本比率87.1%という超優良財務企業だ(2025年7月末時点)。
ヘルメットが「カーナビ」代わりに…常識を覆すSHOEIの新技術
SHOEIは自動車部品メーカー・日本精機の子会社NSウエストと提携して、ヘッド・アップ・ディスプレイ(HUD)搭載のフルフェイスヘルメットを製造・販売している。製品名は「OPTICSON(オプティクソン)」。
自動車のHUDサービスでは、速度やナビゲーション情報はフロントガラス上に映し出され、ドライバーは通常の計器を見るよりも視線の移動距離が短いので安全に運転できる。
OPTICSONではフルフェイスヘルメットを活用してバイクのドライバーにHUDサービスを提供する。走行時に右の目元のディスプレイへ、目的地までの残距離やレーンガイダンスといったナビゲーション情報が浮かび上がる。さらに、ヘルメット内部にスピーカーとマイクを内蔵しており、ナビゲーション情報は映像と音声でガイドされる。
もはや、ヘルメットは頭部を守るためだけにあるのではない。ドライバーの走行全般をサポートするためのツールとして存在する。
SHOEIは一度倒産した反省から効率性を重視した経営を行った結果、財務体質が極めて安定している。そのため、余裕を持って新技術開発に取り組むことができる。強固な財務体質が技術開発を促進し、それが業績向上につながり、さらに財務体質が向上するといった好循環ができ上がっているのだ。
世界シェアトップの地位は、簡単には揺るがない。
田宮 寛之
東洋経済新報社
編集局編集委員
