暮らし始めて芽生えた「小さな違和感」の積み重ね
ところが、暮らし始めてしばらくすると、小さな違和感が積み重なっていきました。
同居前、生活費や光熱費の負担については「だいたい折半でいいわよね」と曖昧なままスタートしていました。しかし実際に暮らしてみると、子育て世帯の生活コストは想像以上だったのです。
孫が家にいる時間は長く、夫婦2人だったら止めていた時間帯も、エアコンや空気清浄機はほぼ一日中稼働。早めにお風呂に入るため追い焚きは毎日。洗濯も、一日2回・3回と回すことが当たり前になりました。
食材も、和子さん夫婦と美咲さん家族ときっちり分けるのは難しく、二世帯分を負担することが増えました。気づけば光熱費は以前の1.5倍。食費は2倍近くになることもあり、年金暮らしの和子さん夫婦の負担感は増すばかりでした。
金銭面だけではありません。孫の保育園のお迎え、習い事の送り迎え、おやつや夕食の準備――。気が付けば、和子さん夫婦が当たり前に世話をするように。休日になると、孫2人を和子さんに任せて、娘夫婦が出掛けてしまうこともありました。
最初は前向きに孫の世話をしたいと思っていましたが、毎日続くと体力的にも精神的にも負担が大きくなりました。思い切って娘に伝えると、返ってきたのは軽い一言でした。
だって同居してるんだし、これくらい普通じゃない?」
家に縛られて身動きが取れない…衝撃的な事実
孫の笑顔は宝物。成長する姿を間近で見ると、幸せな気持ちになります。しかし、日常生活のペースが崩れ、自分たちの時間まで奪われる覚悟はしていませんでした。
和子さんは正夫さんに、ぽつりと漏らしました。
「前は“もっと会いたい”って思っていたのに、今じゃ“お正月に会うくらいがちょうどいいかも”っていう気分。あの静かな毎日が懐かしい……」
失った平穏な日々。限界を感じた和子さん夫婦は、不動産会社に相談してみることに。しかし、そこで衝撃的な現実を知ることになったのです。
不動産会社の担当者によると、「二世帯住宅は特殊な間取りのため、売却する場合、相場よりも2~3割下がります」とのこと。また、土地は和子さんの夫名義ですが、建物は美咲さん夫婦の名義のため、そもそも簡単に売ることはできません。
間取りの問題に加えて権利関係が複雑で、動くことも逃げることもできない状況。和子さんは、まるで家に縛られているような感覚に陥りました。
