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東大野球部の現役選手が司法試験に合格、ゴールドマン内定の慶應野球部生…日本特有の「文武両道いじめ」が球界から消えつつある理由

東大野球部の現役選手が司法試験に合格、ゴールドマン内定の慶應野球部生…日本特有の「文武両道いじめ」が球界から消えつつある理由

◆「文武両道などありえない」日本の野球界の信念

’25年4月、東京六大学野球での慶応大・常松広太郎選手(写真:産経新聞社)
 近年、日本の野球界では「文武両道」な選手が注目を集めている。2023年夏の甲子園で進学校である慶應義塾高校が優勝したのはもちろん、’25年のドラフトではスポーツ推薦での入学制度がない上智大学から正木悠馬投手が同大史上初の指名を受け、慶應義塾大学の主力打者・常松広太郎選手は世界的に有名な外資系投資銀行ゴールドマン・サックスに内定していながらシカゴ・カブスとマイナー契約を交わす見込みである。

 他にも昨年、全国有数の進学校である桐朋高校在学時にドラフト上位候補だった森井翔太郎選手がオークランド・アスレチックスとマイナー契約を交わしたり、今年は東京大学野球部の現役選手であるスタンリー翔唯(かい)選手が司法試験に合格している。

 プロアマ幅広くスポーツ関係者から話を聞き、また自身でもスポーツの現場を経験してきた私の視点からすると、日本の野球界では長年タテマエとして「文武両道」が言われてきた一方、ホンネでは「文武両道=必敗」(スポーツ一本に集中しないと結果が出せない)という信念が、かなり広い範囲で共有されてきたと感じる。

 高校野球の強豪として知られる下関国際の監督が、「文武両道などありえない。野球という一つのことに集中するから結果が出せる」という趣旨のコメントをし、SNSで炎上したことがあった。また拙著『文化系のための野球入門 「野球部はクソ」を解剖する』(光文社新書)でも言及したが、同じく高校野球の強豪、PL学園野球部をモデルにした漫画『バトルスタディーズ』では、野球エリートの主人公が「勉強なんてガリベンにやらせとけ!」とカッコよく言い放つシーンがある。

 私自身、中高大と「進学校」または「一流大学」とされる場所で野球をしてきたが、学力的に中堅以下の事が多い野球強豪校と対戦する際、強い敵愾心が自分たちに向けられているのを感じた。相手チームの指導者が選手たちに「お前ら、勉強で負けていて野球でも負けていいのか!」と檄を飛ばす光景も目にしたことがある。

 進学校の生徒たちは恵まれており、彼らはやがて「いい大学、いい会社」という王道ルートを歩んでいく。そんな(実は昔からある)格差社会で不利な環境にいる自分たちは、一般社会と異なるロジックで動く野球界でなら一発逆転を目指すことができる。野球界やスポーツ界はそんなロマンのある場所だと信じられていた。

◆海外では名門大卒の選手は多い

 しかし海外に目を向けると、このような日本の「文武両道=必敗」という信念のほうが、実は特殊なのではないかと思わされる。たとえばニューヨーク・ヤンキースなどで投手として通算270勝を挙げたマイク・ムシーナはスタンフォード大学で経済学の学士号を取得しており、’17年のWBCでMVPを獲得したマーカス・ストローマンも名門デューク大学で社会学の学士号を取得している。

 現役選手では、ロサンゼルス・ドジャースで大谷翔平の同僚であるトミー・エドマンはスタンフォード大学で数理・計算科学の学位を取得しており、今年横浜DeNAベイスターズでプレーしたトレバー・バウアー、そしてヤンキースのエースであるゲリット・コール(2025年シーズンは手術のため全休)はともにUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)出身である。

 ここで名前が挙がった大学はすべて「世界大学ランキング(Times Higher Education)」で、日本のトップである東京大学と同等かそれ以上に位置している。もちろんアメリカの文武両道メジャーリーガーはやや例外的な存在ではあるが、日本で東大卒・京大卒のプロ野球選手がリーグの看板選手として活躍する姿は、これまでほぼ見られなかった。

 なぜなのかはいくつか仮説があり得るが、私としては「文武両道=必敗」という信念が大きいのではないかと考えている。野球強豪校出身のの選手やコーチは野球一本でやってきたことに誇りを持っている一方で、東大卒・京大卒のような選手が活躍されては自分の存在意義に関わる。すると「文武両道」を実現できそうな選手に対して必要以上のプレッシャーがかかる――これが基本的なメカニズムだったのではないか。

 要するに、野球界では「文武両道いじめ」のようなことが起こってきたのではないか、というのが私の仮説である。これをプロ野球関係者に何度か問うてみたところ、明確に否定した人は今まで一人もいなかった。


配信元: 日刊SPA!

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