◆電車のドアを塞ぎ続けた女性

乗換駅で急行電車を待っていた加藤さん。急行は1つのホームに2路線が交互に乗り入れる仕様で、うっかり間違えるとまったく違う方向へ行ってしまうという、少しややこしい駅だった。
「ホームには多くの人がいましたが、そのなかで、明らかに挙動不審な50代くらいの女性が目に入りました。路線図を見ては首をかしげたり、発車標を見ながらホームをうろうろしたり。焦っている様子が伝わってきました」
ほどなくして急行電車が到着。加藤さんはその電車に乗り込んだ。先ほどの女性も同じ車両に乗ってきたものの、車内の液晶画面を見てから「違う」と言わんばかりに降りてしまった。
「乗り間違えたのかな?と思いました」
しかし、驚いたのはその直後だったという。
◆発車時刻を過ぎても動かない電車
しばらくすると、先ほどの女性が再び戻ってきた。ただし、乗り込んできたのは片足だけ。もう片方はホームに残したまま、電車のドアの真ん中に立ち塞がったままの状態だったのだ。
「液晶の行き先表示とスマホを交互に見ながら、なにかブツブツつぶやいていて……。当然ドアは閉まりません。車内は一気にざわつきました」
ホームのスピーカーからは駅員の注意の声が響くが、女性は聞く耳をもたない様子だった。そして、とうとう若い駅員が駆け寄ってきて……。
「乗るんですか? 乗らないなら離れてください」と必死に促す駅員に対し、女性は「X駅に行きたいんですけど、止まります?」と質問を始めた。
「駅員さんが『この電車は止まりません』と答えると、今度は『じゃあ次のいつ来るの?』『どうやって乗り換えたらいいの?』と詰め寄っていたんです」
見るからに新米の駅員は、ドアを塞いだままの女性に、乗り換え方法をていねいに説明し始めてしまったという。
「もう発車予定時刻は過ぎていました、車内の乗客はみんなイライラ。舌打ちする人もいましたね」
そこへ、ベテランらしき中年駅員が駆けつけ、女性と新米駅員を駅のホームへ引っ張り出すかたちで決着。ドアは閉まり、ようやく電車は動き出した。
「大きく遅れたわけではありませんでしたが、まさか“片足だけ乗ってる人”のせいで足止めを食らうとは。あの光景は今でも忘れられません」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

